58歳のベテラン主婦はモラハラ夫と離婚できるのか? イライラするのに読んでしまう『もう別れてもいいですか』がおもしろい
しかし、本書の主人公・澄子は行きつ戻りつしながらも、離婚に向かって歩み始める。そのきっかけは、離婚した友人だったが、年齢と経験を重ねてどんどん分厚くなるばかりの怖がり、面倒くさがり、諦めがちという自分自身の壁を壊すことができたのは、案外小さなきっかけである。
それは、行ったことのない隣町の弁護士事務所に自分の運転で行ったことにより、少し自信が回復し、フットワークが軽くなり、自身の世界が広がったこと。そして、その支えとなったのは、「高校時代の自分に戻る」思いだったのが、実に面白い。
人はよく「言いたいことが言える人と、言えない人」「我慢してしまう人と、我慢できない人」と、つい二極化で考えがちだ。もちろんそうした個人差は生まれつきの資質や環境によってあるだろうが、「いつの時期でも誰に対しても、言いたいことが言えず、ただ我慢してきただけ」という人は少ないはず。
澄子は友人に「なんか雰囲気変わったで」と言われ、こう返す。
「変わってぇへんわ。高校時代の自分に戻っただけやがな」
誰かの真似をしたり、思い切って別人に生まれ変わったりする必要はない。誰にでも「自分がもっとイキイキしていた時期」「自分が今よりも真っすぐだった時期」「自分にわずかでも自信があった時期」はあるだろう。その時の自分を思い出し、そこに少し戻すだけで、自分自身を取り戻すことができるのではないだろうか。
何歳になっても自分自身を再生させることはきっと可能で、そのヒントはこれまでの自分自身の中にある――そんなことを考えさせられる「発見」の一冊だ。