65歳の女性が男子大学生と映画作りの海へーー『海が走るエンドロール』が描く、創作とその不安

『海が走るエンドロール』のもやもや

※本稿は『海が走るエンドロール』のネタバレを含みます。

 2021年8月16日にコミックス第1巻が発売され、その年の12月に宝島社「このマンガがすごい!2022」オンナ編で1位となった『海が走るエンドロール』。2022年2月16日には待望の第2巻が発売された。

 とある男子大学生との出会いによって、65歳の女性「茅野 うみ子」が映画製作の世界へ漕ぎ出す姿、そして創作活動に向き合う彼女が目にする景色を描いた本作。第1話を公開したSNSの投稿は28万以上のいいねを記録するなど、2021年に大きな話題を生んだ漫画作品といえるだろう。

 多くの注目が集まるなか発売された2巻。今回はどんな景色が描かれたのだろうか。

言葉にできない“もやもや”を可視化する

 夫と死別し、ひとりで暮らすうみ子は、思いつきで訪れた映画館で映像制作を学ぶ大学生「濱内 海(カイ)」と出会う。故障したビデオデッキを直してもらうため、うみ子は海を自宅に招き、修理後にはふたりで映画を鑑賞する。

うみ子さんさぁ

映画作りたい側(こっち)なんじゃないの?

 映画を見終えた海にかけられた言葉から、うみ子は足元に波が押し寄せる感覚を感じる。日常に波をたたせないようにしようと思う反面、目の前に広がる創作の世界に船を出そうとする思いを抱くうみ子。1巻ではうみ子が海と同じ大学に入学し、自身の目標を見つけるまでの姿が映された。

 映像制作に興味を抱きつつ、日常に波をたてることに面倒臭さを覚えたり、他の学生と共に大学生活を送るなかで“もやもや”とした気持ちが溜まったりーー。本作ではうみ子の創作に対する意欲と創作活動を取り巻くネガティブな心情が見られる。

 しかしうみ子が大学生活のなかで感じるもやもやの正体は1巻で語られず、うみ子の乗る船のなかにクシャクシャと丸めた紙のような物体が溜まる描写として、彼女の鬱々とした心情は表現されている。

 理由もわからず、漠然とした不安に包まれたような感覚を覚え、胸がドキドキしたり、身体がソワソワする。自身の気持ちをすべて理解し言葉に落とし込む難しさは、多くの人にとって体験したことのある感覚であろう。言葉として表せないものの、心のなかには確かに存在する陰り。そんな曖昧で目に見えないものを、本作は目に見えるかたちとして表現してくれる。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる