「メフィスト」小泉直子編集長が語る、定額会員制の読書クラブへの挑戦 「クローズドなサークルを作りたいわけではない」

「メフィスト」編集長インタビュー

見たこともない才能を文三から発信していきたい

潮谷験『スイッチ 悪意の実験』

――会員制読書クラブのシステム面を伺ってきましたが、文三が伝統的に扱ってきたエンタメ小説自体の変化についてはどう考えていますか。

小泉:変化させよう、大きく改革しようという気持ちはまったくなくて、今までと変わらず、見たことがない才能や作品をお届けしたい。創刊から25年が経ったなかで、私たちは新しい方法で物語と読者をつなげることができないかと模索して、メフィストリーダーズクラブを立ち上げました。これまでの伝統に、新しい読書体験として届けたいという項目が加わった形ですね。メフィスト賞も今まで通り変わらず、みなさまからの応募をお待ちしています。過去には「メフィスト」刊行ごとに選考座談会を行っていましたが、年2回、応募がウェブだけとするなど、時代に応じて変えたところはあります。でも、求めているものはなにも変わりません。見たこともない才能を文三から発信していきたい。

――これまで様々な話題作、問題作を送り出してきたメフィスト賞の最近の成果は。

小泉: 2021年に刊行された潮谷験さんのデビュー作『スイッチ 悪意の実験』が第63回で一番最近の受賞作です。

――潮谷さんは同年に出た第2作『時空犯』も好評ですね。

小泉:メフィストリーダーズクラブをピーアールの場として潮谷験さんや五十嵐律人さん(2020年『法廷遊戯』で第62回メフィスト賞受賞)はじめ、メフィスト賞出身作家さんを推していくつもりです。

――メフィスト賞応募作の近年の傾向はどうですか。

小泉:文三の編集者が全員で読んでいるからだいたい傾向はわかりますが、やっぱりミステリーや文三の作品が本当に好きで書いてくださる方が多いという印象です。過去の先行作品に影響を受けている方が多いです。それは嬉しくもあるんですが、影響が強すぎると逆になかなか受賞に結びつかない。次回の締切は2月末です。新しい才能の登場に期待しています。

――紙版で届く「メフィスト」をめくった時に大胆だなと思ったのは、連載小説が5本並んでいたことです。

小泉:読み切りの短編は現在はないですね。ただ、今後は短編の特集なども組んでみたいと思っています。郵送の方法や料金の関係で今以上厚くできないんですが……。

――綾辻行人さんと有栖川有栖さんがミステリーの名作について語りあう「ミステリ・ジョッキー」は「メフィスト」名物企画でしたが、こちらはオンラインで続けていきますか。

小泉:年1回くらいはやっていきたいです。この企画も以前は誌面上で対談していて、もちろん文字で読むのも面白いんですけど、リアルで聞けたらどんなに楽しいだろうと想像していました。それをオンラインで実現できたのは、メフィストリーダーズクラブという形ならではですね。

――小説の書籍化に関しては、文三というと昔はまず講談社ノベルスのイメージでしたが、最近は単行本で出すことが増えましたね。

小泉:ノベルスは、今は主にシリーズものを出しています。綾辻さんの『館』シリーズ、有栖川さんの国名シリーズなどはあの判型で揃えている方がいらっしゃいますし、高田崇史さんのQEDシリーズ、田中芳樹さんの『創竜伝』などもそうです。

――小泉さんは「メフィスト」以外に単行本も担当しているんですか。

小泉:はい。たとえば、本屋大賞にノミネートされた一穂ミチさんの『スモールワールズ』という本を作ったり、綾辻さん、有栖川さん、麻耶雄嵩さん、メフィスト賞作家の黒澤いづみさんを担当しています。今年は、垣谷美雨さんの新作の予定もあります。

雑誌だけを作る感覚とはまったく違います

十角館マグカップ

――そうした仕事を抱えつつ進めているメフィストリーダーズクラブですが、コンテンツは一通り出揃いましたか。

小泉:2月からグッズの販売をスタートさせたのですが、想像以上の大反響を頂いています。ホームページから有料会員のみが購入できるシステムです。綾辻さんのグッズは十角館マグカップがありまして、有栖川さんのグッズはカレー皿とスプーンのセット。これは臨床犯罪学者・火村英生の人気シリーズで彼とワトソン役の作家アリスが出会ったカレー記念日になぞらえたものです。2022年は2人のシリーズがちょうど30周年なんです。そして辻村深月さんの本の装画を担当されている佐伯佳美さんに12カ月全部描き下ろしていただいた卓上カレンダー。森博嗣さんのグッズは、「のんた君Tシャツ」。西尾維新さんは「掟上今日子のメモ帳」をご用意しています。また、ローンチしたばかりの本ソムリエのAI診断も人気です。「美読倶楽部」というコンテンツなんですが、小説の文体が2つずつ5回出てきて、自分の好みの方を選んでいく。そうするとあなたにおすすめの本はこれですとサジェストしてもらえるものです。メフィストリーダーズクラブが、新しい本との出会いのきっかけになる場所になれたらいいなとの思いで、そんなAIを開発してもらいました。この開発もすごく時間がかかっています(笑)。これ以外にも面白い試みを準備しています。

――これまでの雑誌の編集長とは違うイメージですよね。チェックしなければならない事柄だってずいぶん違う。

小泉:メフィストリーダーズクラブは、紙の雑誌は編集長の私が進行管理、原稿、校了を受け持っているんですが、ウェブなども含めた統括リーダーがべつにいて、そのうえに部長がいる。仕事を分担して私1人がすべて見ているわけではないんですけど、雑誌だけを作る感覚とはまったく違います。会員制といっても、我々はクローズドなサークルを作りたいわけではないんです。なるべく垣根を低くしたい。イベントに参加して「ミステリー初心者なんですけど、最初はなにを読んだらいいですか」と聞いてくださる方もいます。そういう方もウェルカムで参加してもらいたい。ガチガチのミステリー原理主義ではありません。もはや謎がない物語はないに等しいともいえますし、大きなくくりで「物語」、そして「謎を愛する人たち」に〈MRC〉に入ってもらいたいなと思っています。

■「メフィストリーダーズクラブ〈MRC〉
https://mephisto-readers.com/

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