『3月のライオン』二海堂晴信の存在はなぜ重要なのか 物語に吹き込む明るさと情熱

『3月のライオン』二海堂晴信はなぜ重要?

 羽海野チカによる将棋マンガ『3月のライオン』は2007年から「ヤングアニマル」(白泉社)で連載中で、2016年にTVアニメ化、2017年には実写映画化された、累計発行部数300万部突破をした大人気作だ。

 本作では家族を事故で亡くし、孤独な少年・桐山零がプロの棋士として、大人として成長していく姿が描かれる。物語としてのクオリティが高く、2011年に第35回講談社漫画賞一般部門、2014年には第18回手塚治虫文化賞マンガ大賞、202年は第24回文化庁メディア芸術祭賞マンガ部門大賞を受賞している。

ムードメイカーとして欠かせない二海堂の存在

 桐山が将棋を指したり、思考を巡らせたりしているシーンは、全体的にベタで塗りつぶされていることが多い。1巻を例にとれば、桐山が義父である幸田と対局するシーンは全体的に絵が明るい。しかし、桐山の内面は重々しいという言葉だけでは言い表せない葛藤に満ちており、そのことが如実に伝わる表現がなされている。

――一手一手 まるで素手で殴ってるような感触がした――
殴った肌の あたたかさまで 生々しく残っている気がする
父さん……

 この桐山のモノローグは黒い背景に、白い縁取りをした黒い文字で書かれている。桐山の深い自責の念が現れている言葉にも取れる。

 川本三姉妹との微笑ましい交流や、将棋好きで生徒思いの林田先生とのやりとりにおいては、心温まるシーンが少なくないが、桐山が将棋を指しているシーンが明るく描かれることは極めて少ない。仕事であり、ライフワークともいえる将棋でこそ、桐山には救われてほしい……そう願う読者に寄り添ってくれるのが、桐山のよきライバルである、二海堂晴信だ。

 二海堂の登場は早く、2話から存在感を示している。桐山の親友を自称する二海堂は本作の登場人物としてやや異質で、終始、明るい。

普通そういうモンだろ⁉

ライバルとか努力とか

そーいう色んなアレを

乗り越えて
最後にはお互いバチーンと
ハイタッチ☆で
「親友誕生☆」みたいな…
――読めよ!! 流れを!!

 桐山のモノローグと比べてみると、この二海堂の明るさは、時に別作品なのではないかと錯覚してしまうほどだ。彼の存在は常に、桐山が決してひとりきりで将棋を指しているわけではないのだと、読者に訴えかける。島田研究会の島田開など、他にも桐山の理解者は登場してくるが、序盤の将棋のシーンは、二海堂がいるからこそ、息が詰まるだけではない、明るさがもたらされている。

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