藤本タツキ、遠藤達哉、山本崇一朗、羽海野チカ……有名漫画家たちの原点「初期短編集」に感じる才能

有名漫画家の「初期短編集」が熱い

  『チェンソーマン』で知られる藤本タツキが、自身初となる短編集を『ルックバック』『17-21』『22-26』のタイトルで3冊連続発売し、今大きな話題を呼んでいる。特に『17-21』には、藤本タツキが17歳の頃に描いた初の漫画賞への投稿作「庭には二羽ニワトリがいた。」など初期の作品が収録されており、藤本タツキというのちに大ヒット作を生み出す漫画家の原点に触れられるような奇跡の一冊となっている。

 藤本タツキしかり、今どんなに有名な漫画家にも必ず”初期”が存在する。そんな初期の作品を収録した「初期短編集」は、絵やストーリーが少々荒削りではあるものの、作家のルーツや剥き出しの才能を感じらるところが魅力だ。また、中にはのちの大ヒット作のベースとなる読切作品が収録されていることもあるので、現在の作品と見比べて読んでみるのも面白い。そこで、今回は今大注目の有名漫画家たちによる「初期短編集」を厳選してお届けしていく。

【SPY × FAMILY】遠藤達哉『四方遊戯 遠藤達哉短編集』

遠藤達哉『四方遊戯 遠藤達哉短編集』

 2022年にTVアニメ化されることが発表され、大きな注目を集めている遠藤達哉による『SPY×FAMILY』。本作は集英社「少年ジャンプ+」で連載中で、シリーズ累計発行部数1250万部突破というウェブ発の漫画としては異例の大ヒットを記録した作品としても話題である。

 『SPY×FAMILY』とは、凄腕のスパイ・黄昏(たそがれ)がとあるミッションを遂行するために、実は殺し屋の妻・ヨルと人の心が読める超能力者の少女・アーニャといった仮初めの家族と暮らす日々を描いたホームコメディ作品である。アーニャの無邪気な可愛さはもちろん、痛快なバトルアクション、そして時に心温まる家族愛に溢れたストーリーの数々が本作の魅力だ。

 そんな『SPY×FAMILY』を手掛ける遠藤達哉の初期衝動が詰まった一冊こそが『四方遊戯 遠藤達哉短編集』である。デビュー作を始めとする読切4作品が収録されており、竹取物語や魔女といった世界中の伝奇に因んだキャラクターやストーリー展開が斬新で、読み応えのある一冊になっている。また、全作共通して、自分の手で運命を切り開く強い意志を持った女性が主人公であり、これは『SPY×FAMILY』に登場するヨルの内に秘めた強さを彷彿とさせる。

【それでも歩は寄せてくる】山本崇一朗『ロマンチック-山本崇一朗(裏)短編集』

山本崇一朗『ロマンチック-山本崇一朗(裏)短編集』

 同じく2022年にTVアニメ化されることが発表された『それでも歩は寄せてくる』。主人公は、将棋部部長の八乙女うるし(やおとめうるし)。将棋は強いけれど、後輩・田中歩(たなかあゆむ)による言動の「攻め」にはとっても弱く、いつか"詰む"かもしれない......という「週刊少年マガジン」で連載中の大人気将棋ラブコメである。

 作者の山本崇一朗は、本作のほか『からかい上手の高木さん』『くノ一ツバキの胸の内』というラブコメ作品を同時連載中で、前者は既にアニメ化されており、後者も2022年にTVアニメ化が決定するなど名実ともに”今最注目のラブコメの名手”と言っても過言ではない。

 『ロマンチック-山本崇一朗(裏)短編集』には、山本崇一朗が本格的な連載デビューを果たす前の読切作品が6編収録されている。表紙を飾る2人は表題作である『ロマンチック』に登場する2人で、現在は休刊となってしまった「月刊IKKI」2010年5月号に掲載された幻の読切作品である。ジャンルとしてはラブストーリーではあるものの、現在の作風とはまた違う、個性的でダークなキャラクター設定やストーリー展開に思わず驚いてしまう。だが、この作品の振り幅こそが、3作品同時連載をこなしながらも、それぞれ異なるタイプの”胸キュン”を創出する山本崇一朗の原点であり強みなのかもしれない。

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