現代の知識・技術は異世界をどう変える? 『服飾師ルチアはあきらめない』新刊が週間ラノベランキングで浮上

 高温多湿の日本に、文明開化で西洋から革靴が入って来て発生した問題が、白癬菌によってもたらされる他に例えようのない足先のかゆみ、すなわち水虫だ。吸湿性の高い中敷きを入れたり、靴下をこまめに取り替えたりすることで予防に努めても、なかなか抑えづらい。そこで役立つのが五本指の靴下。足指の間にたまる汗を吸い取り、蒸れを防ぐその効果は異世界でも絶賛され、ファッション好きの女性を王国お抱えの工房長に引っ張り上げるーー。

 Rakutenブックスのライトノベル週間ランキング(1月10日~16日)で第5位に入った天岸久弥作、雨壱絵穹イラストの『服飾師ルチアはあきらめない~今日から始める幸服計画~2』は、異世界へと転生して魔道具師になった少女が、元いた世界の知識を使って冷蔵庫やドライヤーといった道具を“発明”し、世界を変えていく『魔導具師ダリヤはうつむかない~今日から自由な職人ライフ~』シリーズのスピンオフ。ダリヤとは幼なじみで、靴下や手袋を作っているファーノ工房で働いているルチアを主人公にしたシリーズの第2弾だ。

 発売が1月25日ということなので、第1巻で起こったことを振り返ると、ダリヤと通った初等学院を出て服飾師、分かりやすく言えばファッションデザイナーを目指そうと決意したルチアは、家の仕事を手伝いながらラニエリという凄腕の服飾師に師事し、師匠が感心する程の腕前になる。そのラニエリが旅に出て3年が過ぎたある日、ルチアの家にワイバーンが舞い降り、ある物を作って欲しいと頼んできた。

 それが五本指靴下。実は以前にダリヤから頼まれて、彼女の父親のために作ったもので、その時は使われることがなかったが、魔物討伐部隊の先駆けを務めるヴォルフから、沼地で戦う隊員が水虫で苦しんでいると聞いたダリヤが五本指靴下を渡したところ、大絶賛され一気に発注がかかったという。このあたりの話は、『魔導具師ダリヤ~今日から自由な職人ライフ~2』に詳しく書かれていて、読むと既読者は前線の隊員たちが抱える苦悩が伝わってくる。

 そうした悩みを解決した五本指靴下が、工房長となったルチアの下でどれだけの苦労を経て作られ、送り出されたかが分かるのが『服飾師ルチアはあきらめない~今日から始める幸服計画~』。同時に、様々な顧客がそれぞれに持つファッションへの悩みを、ルチアがデザイナーとしてのセンスと知識で、解決していくストーリーを楽しめる。

 王城警備隊で活動していたため、体に筋肉が付きすぎていないか、腕が太すぎないかといった悩みを抱えながら、婚約のお披露目に臨もうとしていた女性騎士に、最適なドレスを作ってあげて喜ばれるエピソード。大柄な上に深いしわが刻まれ、髭も長く伸びた顔が孫に怖がられ、泣かれてしまうのをどうにかしたいと言ってきた老子爵を、孫に抱きつかれるまでに変えてしまうエピソード。立場だとか体面といったものから人を解き放ち、周りから慕われ本人も嬉しいファッションを作り上げるデザイナーの才知に触れられる。

 ダリヤを主人公にしたシリーズは小説が第7巻まで出てコミカライズも進み、累計120万部という人気シリーズに成長した。現世の知識が異世界で活かされるという設定は、ランキング第4位に入った白米良『ありふれた職業で世界最強 12』や、第6位の伏瀬『転生したらスライムだった件19』でも用いられていて、異世界転移・転生物のひとつのフォーマットと言える。

 『服飾師ルチア』のルチアは転生者ではなく、五本指靴下のようなアイデアはダリヤからもらっても、ファッションデザイナーとしての工夫は独自のもの。転生者というチートに頼らずとも、才覚によって成功できる一例として読まれ、ファッションの素晴らしさに触れて現世でデザイナーを目指す人を生み出したら面白いのだが。

 ちなみに五本指靴下に関しては、和歌山県にある島精機製作所が作中にあるような指部分の縫い付けを必要としない全自動編機を開発して提供している。島精機製作所の技術はミッソーニやグッチといった高級ブランドのセーターでも使われていて、『服飾師ルチア』のようにデザイナーが技術とアイデアでファッションの難題をクリアしていく大河原遁の漫画『王様の仕立て屋~サルト・フィニート~』シリーズにも登場する。ファッションデザイナーに興味が浮かんだ人なら、読んで為になる作品だ。

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