待った甲斐があった『ノーゲーム・ノーライフ』最新刊 大きく動き出した物語の行方はーー

待った甲斐があった『ノゲラ』最新刊

 誰かを傷つけるような争いが神によって禁じられ、すべてをゲームの勝敗で決めるようにされた異世界に、ゲームが得意な兄と妹が転移させられ様々な勝負に挑む。そんな設定の榎宮祐によるライトノベル「ノーゲーム・ノーライフ」(ノゲラ/ノゲノラ)シリーズに、3年9ヶ月ぶりとなる新刊が登場した。11 ゲーマー兄妹たちはカップルにならなきゃ出られないそうです』(MF文庫J)だ。

 兄の空はニートのひきこもり。ゲームにかけてはカードゲームからコンピューターゲーム、ジャンケンにしり取りにコイントスまであらゆる勝負事に精通し、イカサマも使って無敗を続けてきた。妹の白も極端な対人恐怖症ながら、チェスのチャンピオンを負かしたコンピュータですら退ける類い希なる計算能力を持っていて、空同様にゲームで無敗を誇ってきた。

 神によって異世界【ディスボード】に連れてこられた2人はまず、16に別れた種族の中で位階序列最下位だった『人類種』の王座を獲得し、そこから『天翼種』や『獣人種』といった、位階序列上位の国々をゲームで負かして攻略していく。ゲームの内容は、チェスであったりオセロであったりと現代でも馴染みのあるもので、空や白なら楽勝そうに見えてルールが大きく違っていた。

 第1巻で、『人類種』の国の王座を巡って行われたチェスの勝負では、盤面の駒たちが意思を持ったかのようになり、プレイヤーの命令どおりに動いてくれずチェスが得意な白も追い詰められる。第3巻で登場したオセロにも、駒を相手の色にされれば記憶や人格を奪われるようなエグい仕掛けがあった。

 見知ったゲームでもルールは超複雑だったり、相手が人間には使えない特殊能力を駆使してきたり、そもそもルールが分からなかったりと、敗北ギリギリのところから始まるような勝負の連続を、空と白は「『  』(くうはく)に敗北はない」という現世での評判どおりにひっくり返して勝利する。そんなスリリングな展開で、「ノゲラ」シリーズは2012年のスタート直後から熱い支持を集め、「このライトノベルがすごい!2015」ではランキング3位に食い込んだ。

 毎回、よくこれだけのゲームを考えてルールを設定し、大逆転のストーリーを生み出せるものだと作者に対する尊敬の念も浮かぶシリーズだが、同時に次も同じかそれ以上の面白さを見せてくれるのかといった心配もあった。3年9ヶ月というブランクもネタ切れへの不安をかき立てたが、待望の第11巻は期待に違わない凄い戦いを見せてくれた。同時に、大きく動き出した物語がこれから辿る戦いの困難さも。

 第11巻で繰り広げられる『妖精種』との勝負は、瀬戸際どころかもはや敗北しているところから始まっているのではと思わせるくらい、空や白に勝ち筋が見えなかった。ゲーム自体は『ゲーマー兄妹たちはカップルにならなきゃ出られないそうです』というタイトルにもあるように、『妖精種』が作った閉鎖空間に引きずり込まれた空と、白に『人類種』『天翼種』『機凱種』の少女たち4人が、誰でもいいからカップルになれば外に出られるというものだった。

 つまりは恋愛イス取りゲーム。ひとりがあぶれるが、閉鎖空間での様子を配信することで課金を得て、50億ポイント貯まれば出られるというから決して無理な話ではない。いや無理か? 無理でも突破するのが空と白だ。ネット配信者たちがより多く課金したくなるような番組の作り方を披露し大金を稼ぎ出す。

 ただ、肝心のカップル作りが、4人の少女たちによる空への感情がぶつかり合って困難を極める。それ以前に空や白や少女たちが、何の前兆もなしに閉鎖空間にとらわれ、ゲームに参加させられていたことが奇妙だった。そこから空が、推察によってゲームの構造を見破り、ほとんど敗北に等しい地平から始まっていたゲームを完全なる勝利へと持っていく展開は、これまで描かれてきたあらゆるゲームに負けない興奮をもたらしてくれる。

 ゲームを終えて解放された空や白を待っていた勢力図の変化が、異種族を相手にルールのあるゲームで戦って勝ち抜いていくストーリーに、政治であったり外交であったりといった要素を乗せて、国家の興亡史を見るような展開に向かうことを予感させる。10周年となる2022年中に続きが読みたいところだが、作者は応えてくれるだろうか?

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