大病を乗り越え、笑いに昇華? 実体験闘病ギャグエッセイ漫画『腸よ鼻よ』がすごい

「すげー面白い漫画みつけたっっっ!!!」

 あるとき、職場の先輩看護師が興奮しながらおすすめしてきたのが、電子コミックサービス「GANMA!」で連載されている『腸よ鼻よ』だった。普段、クールな先輩が珍しく興奮していたので、筆者も気になって即読み始めた。そして、「すげー面白かったっっっ!!!」とボルテージが最高潮のまま、翌日の職場で先輩に伝えたことを、いまでも覚えている。ちなみに先輩は、「オークに襲われた女騎士の気分です」という『腸よ鼻よ』内のセリフが入ったLINEスタンプがお気に入りのようで、よく送ってくる(笑)。

 さて、本作は沖縄の国際通りの裏路地、そこにあるバーでのやりとりからはじまる。バブル時代のワンレン・ボディコンスーツに身を包んだ女性。いつもの島サンライズ(泡盛を使ったカクテル)とシマチョウ(牛の大腸)をマスターに頼み、物思いにふけりながらこう語る。

「……無いのよ。あたし大腸が無いの」

 作者の島袋全優だ。こうして彼女の過去を振り返りながら、話が進んでいく。

 まず、多くの読者は率直に「大腸がないとは、ど、どういうことだ……!?」となるだろう。筆者は仮にも看護師なので、「あぁ……大腸全摘(大腸をすべて切除)となると、潰瘍性大腸炎とかかな……」と、勝手に脳内診断がはじまった。まさしくこの作品は、潰瘍性大腸炎になった作者の闘病記だ。

 漫画家を夢見る少女、バイトと原稿制作に明け暮れる毎日を送っていた島袋全優は、難病特定疾患である潰瘍性大腸炎と診断され、入退院を繰り返すことに。しかし本作に悲壮感はない。発病した学生時代から商業デビューを果たし、漫画家になってからも続く闘病生活の実体験を明るく描く、ギャグコミックエッセイである。

※潰瘍性大腸炎 参考:https://www.nanbyou.or.jp/entry/218

 筆者は過去に小児科で数年勤務していたこともあり、実際に治療している患者さんとも関わったことがある。作者と同じように、はじめて下痢や血便などの身体の異変に気づいてから、受診までの期間が長くかかるケースは何度かみてきた。いまでは、原因不明の不調もスマホひとつですぐに情報が手に入るが、少し前までは簡単に調べることができず、誰にも言えないでままであることも多かったのだと思う。この作品を読み始めたとき、私は病気のことをある程度知っているつもりだった。しかし、読み終えて感じるのは、作者の人としての強さと、医療現場にいてもまだまだ知らないことばかりだったということだ。

絶対に笑わせたるという強い信念、ギャグに変えてしまうテク

 こんなことを言うのはなんだが、個人的に闘病漫画は読むのに少しハードルが高いと感じることがある。医療の現場に身を置いているせいか、知らなかった病気のことを知ることができるという面白さもあるが、患者さんや家族に感情移入してしんどくなり、どっと疲れてしまうからだ。ましてや、無理に感動ものに仕上げていたり、物語性を強く出そうとしている作品も、現実の医療現場とかけ離れているように感じて、少し引いてみていたところもあるかもしれない。

 だけど、この作品はちょっと次元が違う。作者の「真剣に読んだら面白くないと思いますので、居酒屋で隣の席から聞こえてくる会話ぐらいの構え方で読んでもらえたら幸いです」という、読者に押し付けすぎない姿勢が、なんだか好きだ。また、「取材と称し入退院を繰り返す」というギャグに変えてしまうスタンスで、「病院食ダイエット~」というネタで休載をはさみながらも、現在連載は101指腸(2022年1月19日時点)まで続いている。本当に体当たりで漫画を描いていることが伝わってきて、感服するしかない。

 本作では同じ医療従事者からみても、トンデモなキャラが出てくる。治療法をネットで調べる医師や、点滴を入れるのが下手すぎな看護師など。しかし、作者のセカンドオピニオン(セカオピと略すのは初めて聞いた、ちょっとかわいい)により転院してからは、作者の治療にきちんと向き合い、仕事や生活にも理解を示してくれる医療従事者(絶対にCV大塚明夫だろうという渋い主治医、ガチオタで徹夜で麻雀やっちゃう看護師など、許可がとれたキャラは本人に似せているらしい)と出会うことになる。本当にセカオピは大事だぞ……とあらためて思う。

※セカンドオピニオンとは、患者さんが納得のいく治療法を選択することができるように、治療の進行状況、次の段階の治療選択などについて、現在診療を受けている担当医とは別に、違う医療機関の医師に「第2の意見」を求めること。
引用:https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/gan_portal/chiryou/second_opinion/about.html

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