大病を乗り越え、笑いに昇華? 実体験闘病ギャグエッセイ漫画『腸よ鼻よ』がすごい

 あとは、作品紹介文に「片手にGペン、片手に点滴を携えたエキスパート患者~」と書かれているのをみて、ちょっと微笑ましくなってしまった。いや、看護師として働いていると、こういう患者さんは実際にいる。必要な治療で何度も入退院を繰り返しているためか、入院時に「ただいま~」「また来たよ~」みたいなノリで病院に来る。「もうわかってますから」と軽妙な動きで、自分が過ごしやすいように床頭台やベッド周りのセッティングするのはお手のもの。「今日は一段と忙しそうだね」と、看護師の仕事の忙しさもなぜか把握しているし、誰が怖い医師か看護師かも熟知し、働く看護師の恋愛・人生相談にも乗ってくれるような患者さんだ。採血のときには、「ここにいい血管あるよ」と教えてくれたりする。医療従事者にとっても、ときにこうした患者さんの存在は心強かったりする。作者も実際の入院生活ではこんな雰囲気なのかな~と漫画を読みながら、想像を膨らませてしまう。

 作中のギャグに笑いながらも、潰瘍性大腸炎という病気のことやステロイドパルス療法、大腸全摘手術、ストーマ、腸にやさしい食材のこともきちんと知ることができるというのは、不思議なものだ。病気のことは知っているつもりでいたが、患者の一人ひとりに個別の事情とドラマがあり、決して「○○病患者」などとラベリングして、ひと括りにはできないのだということをあらためて教えてくれる。そして本作には、病気をただ苦しいだけのものではなく、ひとつの経験として捉え、消化した上で、全力で笑いを取りにいくという強い信念をも感じる。医療従事者であっても、そうでなくても気軽に手に取ってほしいと思う。

■書誌情報
『腸よ鼻よ』1~5巻
作者:島袋全優
出版社:KADOKAWA
https://ganma.jp/chohana

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる