『きりひと賛歌』『スーパードクターK』『動物のお医者さん』……医療マンガ50年の歴史を考察

医療マンガ50年の歴史を考察

 1970年の手塚治虫『きりひと賛歌』(1967年のテレビドラマ『白い巨塔』ブームの影響があるとされる)に始まる日本の医療マンガの半世紀の流れをブックガイド形式でまとめ、耳慣れない「グラフィック・メディスン」という概念について解説した、一般社団法人日本グラフィック・メディスン協会編『日本の医療マンガ50年史 マンガの力で日本の医療をわかりやすくする』(Scicus)が刊行された。

グラフィック・メディスンとは?

一般社団法人日本グラフィック・メディスン協会編『日本の医療マンガ50年史 マンガの力で日本の医療をわかりやすくする』(Scicus)

 グラフィック・メディスンとは、マンガを使って医療従事者と患者の間のコミュニケーションをめざす取り組みで、2007年にイギリスで提唱された、まだ新しい概念である。

 医療関係の当事者や将来目指している人たち、特定の疾患を持つ人やその家族がマンガを通じて、特定の病気になった人の気持ちや生き方、治療の選択肢を知ったり、医者や看護士の仕事や期待される役割(または偏見、ステレオタイプ)を学んだり、医療をめぐる社会問題を考えたりする――これは日常的に起こっている現象だが、それに名前を付けたものだと言える。

時代による医療マンガの変遷

 この本では「70~80年代 医療マンガの黎明期」「90年代~2000年代 医療マンガの展開期」「2010年代 医療マンガ史の発展期」「海外の医療マンガ」に分けて100のマンガを紹介。個々の作品の魅力を解説すると同時に、時代によって医療マンガの内容がどう変化し、その背景にある、時代・社会が抱く医療像の変遷を読み解いていく。

 マンガ好きにとっても、医療従事者や患者にとってもブックガイドとして機能する内容になっている。

 たとえば「70~80年代 医療マンガの黎明期」では、『きりひと賛歌』が恐怖マンガとして描かれていたことを指摘し、スーパードクターものの金字塔『スーパードクターK』や、動物医療もの・看護師ものの先駆的存在『動物のお医者さん』などの歴史的重要性を指摘する。

浦沢直樹『MONSTER』(ビッグコミックス)

 「90年代~2000年代 医療マンガ史の展開期」では、80年代後半から医療監修が付くことが一般化し、また綿密な取材を反映したリアルな舞台設定への萌芽が見られるほか、大人の女性向け媒体から誕生した看護士マンガの台頭が目立つ、とする。取り上げているのは前者の流れからは『MONSTER』、『ゴッドハンド輝』、『JIN 仁』、僻地医療に取り組む『Dr。コトー診療所』。医局内の政治闘争「教授戦」とバチスタ手術を描いた『医龍』、『ブラックジャックによろしく』など。

 後者の流れからは『おたんこナース』『Ns‘あおい』、それから、社会問題をドラマティックに暴こうとする男性向け医療漫画とは異なる「手術中に医者たちは案外バカ話をしていたりする」といったディテールを拾うアプローチで医療現場のリアル(日常)を捉えようとする『研修医なな子』などが取り上げられる。

 また、家族と患者の両側から描く医療系エッセイマンガの先駆けが2005年刊の『ツレがうつになりまして』だったとする。

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