林原めぐみがアニメ出演を決めた『月とライカと吸血姫(ノスフェラトゥ)』の魅力とは?

林原めぐみ出演『月とライカ』の魅力とは?

 『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイや、『スレイヤーズ』のリナ=インバースの声で知られる林原めぐみが、イリナという役を演じているテレビアニメ『月とライカと吸血姫(ノスフェラトゥ)』が放送中だ。

 原作は牧野圭祐によるライトノベルで、大国間の熾烈な宇宙開発競争の狭間で生まれた、吸血鬼の少女と宇宙飛行士候補生の青年との交流を描いている。その物語や演じるキャラクターには、林原が演じたいと思うだけの魅力があった。

 「ご依頼を頂いた際は、なぜ今この役が私、というのが正直な気持ちでした」。今年3月、AnimeJapan2021内で開催されたアニメの制作発表に、林原が寄せた言葉だ。林原はそこから原作を読み込み、物語や演じることになるイリナという役について考え、出演を決めた。作品がモチーフにしている、宇宙開発で犠牲になった多くの命が持っていた意味を、イリナを演じることで改めて世に問い、未来につないでいきたいと思ったからだという。

 舞台は旧ソ連を模したような共和国と、アメリカに雰囲気が似た連合王国が2大強国としてぶつかり合っている世界。共和国では国力を誇示しようとして宇宙開発に邁進。連合王国に先駆けて人工衛星の打ち上げに成功し、犬を生きたまま衛星軌道上に送り込むことも成し遂げた。

 次は人間を。そう考えるのが自然の流れだが、犬で成功したから人間でも問題ない、と判断することはできず、次のステップとして、人間によく似た存在で実験することになった。共和国が白羽の矢を立てたのが、イリナという吸血鬼の姫。領地が共和国に侵略され、今は動物にすら劣る立場に貶められていた。

 吸血鬼といっても不老ではなく、事故に遭えば人間と同じように死んでしまう。その吸血鬼を宇宙に送り出し、無事に地上へと戻せれば、人間でも成功するだろうと共和国は考えた。実に酷い話だが、国のため、人類のためといった大義名分によって犠牲は正当化され、ましてや「動物以下」という扱いをされている吸血鬼なら、命を失っても構わないという意識が、人類に蔓延していたーー優秀な宇宙飛行士候補であるレフを除いては。

 レフは宇宙飛行士として大いに活躍できるだけの能力を示していたが、権力者に反発したことで補欠にされていた。イリナの訓練を手伝うよう指令が下ってからも、イリナを蔑まずともに訓練に励む。しかし、イリナやレフがどれだけ頑張ろうとも、吸血鬼への差別や侮蔑の意識はなかなか消えない。それでもイリナは古い種族の末裔として、高い自尊心を持って訓練に臨んでいく。その強さに、声を引き受けた林原も感じ入るところがあったのだろう。

 アニメの公式サイトに、林原は「人種、種族。それは吸血鬼という姿形をかりて、色濃く、今のこの世界にメッセージを投じているように思います」という言葉を寄せている。そんな林原の思いを、アニメと小説で理解したい。

 小説は第7巻まで刊行中。イリナもレフも存命のまま、いよいよ月面着陸という、現実の人類史でもトップ級の偉業に臨もうとしている。そこには、敵対していたはずの帝国も関わってくる。現実とは少し違った経緯を辿る宇宙開発の行方が気になるところだ。

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