『かげきしょうじょ!!』なぜ読者は奈良田愛に魅了される? 変わろうと努力を続ける姿を追う

『かげきしょうじょ!!』なぜ読者は奈良田愛に魅了される?

初めてできた友達とのささやかな出来事

 紅華冬組の舞台「ロミオとジュリエット」を観劇した帰り道、さらさは夕暮れの道端でロミオの独白を演じ、その姿に愛は一瞬で魅了される。

「あの星 あの一番高く 大きく輝く星 あれは渡辺さらさ あの人はあそこへ行くべき人だ 私もそこへ――… その場所へ 同じ高さであの世界を―― 見てみたい」

『かげきしょうじょ!!』8巻

 愛は勇気を振りしぼってさらさに友達になりたいと伝え、彼女と並び立つために娘役トップになることを決意する。

  さらさと友達になった愛は、以後出会った頃の塩対応が嘘のように、急激にデレていく。さらさの誕生日にはプレゼントを渡し、彼女の実家にも泊まり行くなどと、初めてできた友達とのささやかな出来事を通じて、喜びを噛み締めている愛の姿はなんともキュートだ。

 そして愛は、人とは関わらない態度を改め、他のクラスメイトとの関係性も深めていこうとする。体型に悩んで嘔吐を繰り返す山田彩子の健康状態を見抜いて声をかけ、また真面目な星野薫に対しては、台本の漢字が読めないという自身の弱みを打ち明けつつ、彼女にもっと引っぱってほしいとお願いする。

  他人との関わりを通じて、変わろうと努力を続けていく愛。そして少しずつ成長を遂げるなかで、JPX48時代の自らを振り返り、当時の己の未熟さにも気がついていく。

 『かげきしょうじょ!!』8巻には、音楽学校の文化祭で100期生が「ロミオとジュリエット」の一場面を演じるエピソードが登場する。とあるハプニングが生じたため、愛は急遽ティボルトの代役を演じることになった。普段の愛は娘役を演じており、男役を務めるのは異例の出来事だが、彼女はこれが舞台のリスクを最小限に抑えると判断し、自ら代役を名乗り出た。

  舞台に立った愛は、「ごめんね JPXの時にこの気持を知っていたら どうなっていただろう ここは私が初めて自ら望み 思い焦がれた場所 そして私は もう 一人では無い…!」と独白する。モノローグにあわせて、100期生の仲間の笑顔が描かれるこの場面は、愛の成長を雄弁に伝えている。

  ティボルトの代役は、結果的に愛の運命を変える出来事となった。娘役志望だった愛は、舞台を見た先生の勧めにより、男役も将来の選択肢に入れながら自身の方向性を探っていくことになる。

  最新刊の11巻では、演目「オルフェウスとエウリュディケ」で男役演技を作り上げる愛の姿が描かれ、今までとは違う彼女の一面も楽しめる。元JPX48の経験をふまえた舞台プランや、己の持ち味を投影した異彩を放つオルフェウス像からも、愛の成長ぶりがうかがえる。

  愛が娘役と男役のどちらを選ぶのか、結論はまだ見えない。だがいずれの道を選ぶにせよ、彼女は紅華にふさわしい舞台人として輝きを放つだろう。奈良田愛はこれからも自らの過去と向き合いながら、前へ前へと進んでいく。



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