『明日、私は誰かのカノジョ』共感ポイントは、うしろめたさにあり? リアルな作風が支持された理由を考察

『明日カノ』共感の理由

※本記事は『明日、私は誰かのカノジョ』「Knockin’ on Heaven’s Door」編、『推し、燃ゆ』の若干のネタバレを含みます。

 をのひなおの『明日、私は誰かのカノジョ』(以下・『明日カノ』)の8巻が16日に発売された。

 本作はマンガアプリ「サイコミ」にて週刊連載されており、レンタル彼女、パパ活、整形など、さまざまな世界のリアルを切り取った描写に多数の共感が集まっている。

 本作は、章ごとにヒロインが異なる形式で、8巻はゆあ、萌という対象的な二人の女性がホストクラブに翻弄される「Knockin’ on Heaven’s Door」編の完結、そしてゆあの過去を描いた「Strawberry to Heaven」編が収録されている。

 連載開始時からSNSを中心とした口コミで徐々に広まっていた「明日カノ」だが、この「Knockin’ on Heaven’s Door」編の反響はそれまでに比べても大きく、連載が更新される金曜日の夜、サイコミのコメント欄やSNS上は感想戦で盛り上がり、ほぼ毎週Twitterのトレンドに入っていたように記憶している。

 今年6月には女性ファッション誌『LARME』と本作がコラボし、ゆあが紙面に登場、そしてモデル・佐藤ノアが誌上で作者のをのひなおと対談、ゆあのコスプレを披露するなど、大きな話題を呼んだ。

【LARME撮影裏側】明日カノ企画で再度地雷ゆあてゃになりました

 他にもインフルエンサーやコスプレイヤーらが『明日カノ』に登場する女性キャラクターらに扮し、SNSやyoutubeなどの動画サイトで公開しているのを目にすることは多い。そして9月26日には、本作と女性のセンシティブな心理描写を得意とするロックバンド・ミオヤマザキとのコラボソング「アスカノ」も配信リリースされるとのこと。アニメや実写化などのメディアミックス展開前から、女性ファッション誌やロックバンドなどのコラボが続くのも本作の特徴といえる。

誰かを推すという苦悩への「共感」

ゆあがカバーとなった『明日、私は誰かのカノジョ(5)』

 先述したとおり、「Knockin’ on Heaven’s Door」編は、ゆあと萌が歌舞伎町のホストクラブにハマっていく様子を描いている。ゆあは黒髪にツインテール、派手なピアス、フリルなどの装飾過多の服装、いわゆる「地雷系女子」ファッションに身を包み、担当ホストに対しては自己犠牲を厭わない「ホス狂」の女性である。

 一方の萌は、登場時はエスニック系ファッション、ひっつめお団子ヘア。自分自身の女性的魅力に自信を持っておらず、「自分は主人公になれる存在ではない、それをわきまえている」と言い聞かせている女性である。

 そんな一見対象的な二人が偶然出会い、萌はゆあに手を引かれホストクラブの世界に足を踏み入れる。萌は当初は抵抗感を持っていたものの、自分の居場所だと思っていた新宿二丁目のミックスバーでコンプレックスを刺激される出来事が発生。駆け込むようにホストクラブに自分の居場所を求めるのだが……。

 本作がなぜ、多くの読者を惹きつけているのか。たとえば、『闇金ウシジマくん』的に、「知らないアンダーグラウンドな世界への怖いもの見たさ」の読者も少なからずいるだろう。あるいは、近年のホスト文化がSNSや動画サイト文化と親和性が高くなっていることも理由として挙げられるだろうし、もしくはヒロインと担当ホストに自身の「報われない恋」のような関係性を重ねる読者もいるかもしれない。そして、「誰かを(一方的に)推すこと」の苦悩への「共感」があったように思う。

 「推し」(あるいは「推し活」)は、アイドルオタクカルチャーから生まれ、現在では一般的に市民権を得た感のある言葉だ。誰かを「推す」ことで、生きている実感を覚えたり、「推し活」に居場所を感じている人は少なくないだろう。

 多くの「推し」は芝居や音楽などのエンターテインメントを提供しているのであり、コミュニケーションを提供するホストクラブとは別物という見方もある(なお、筆者もわりとそういう考えの持ち主である)。

 しかし、歌舞伎町カルチャーに造詣の深いライター・佐々木チワワ氏の「ぴえん世代の社会学」(「週刊SPA!」連載)にて、推し活カルチャーとホストカルチャーの接近について詳しく分析しているのでそちらを参照されたい。

 萌の担当ホスト「楓」、あるいは、ゆあの担当ホスト「はるひ」との関係は、いわゆる「色恋営業(恋愛と錯覚させること)」のように描写されるが、ゆあははるひとの口論の末に「(ホストとしての)プロ意識」を求めるし、萌は楓のとあるミスがきっかけで、「失恋」を自覚しホストの世界から離れることを決意する。二人とも彼ら個人ではなくプロとしての「偶像」を求めていたという意味では、ホストもまた「推し活」の一環という見方もまた真実なのであろう。そういえば、昨年芥川賞を受賞した小説『推し、燃ゆ』も、主人公の「推し」が所属するアイドルグループが解散し、「人」になったことを認識する過程の話だった。

 ちなみに、『明日カノ』は現在「洗脳」編という新展開を迎えており、ネット配信者という「推し」に夢中になる中学生、ぽぽろが登場する。こちらも見逃せない。

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