新連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2021年8月のベスト国内ミステリ小説

道玄坂上ミステリ監視塔:第1回

道玄坂上ミステリ監視塔:第1回

 全域が見渡せないほどに巨大化し、売り物の多様化が進んだ何でも屋。つまりは幹線道路沿いに建ったメガ・ドンキみたいになっちゃったのが現在の「日本ミステリー」というジャンルだと思います。

 常連さんならいいのだけど、一見の自分には好みの作品を探すことができないよ、というあなたのために。これから毎月、6人の書評家が、自分の一押し作品をお薦めする読書ガイドをお届けします。

 事前打ち合わせなし、前月に出た新刊(奥付準拠)を1人1冊ずつ挙げて書評するという方式はあの「七福神の今月の一冊」(翻訳ミステリー大賞シンジケート)と一緒。原稿の掲載が到着順というのも同じです。さあ、2021年8月はどんな作品がお薦めだったのでしょうか。(杉江松恋)

野村ななみの1冊:『影踏亭の怪談』大島清昭(東京創元社)

 怪談とミステリの微妙な差異を活かしつつ、極限まで融和させた作品である。実話怪談作家の呻木叫子(本名・梅木杏子)が遭遇した4つの謎を、現場に居合わせた梅木の視点と〈呻木の原稿〉双方から辿る。一癖ある構成により、怪談とミステリの違いが浮き彫りとなってゆく。ただし、第一話は例外的に弟の視点で話が進行する。物語早々に杏子は、両瞼を自分の髪で縫い合わされた姿で発見されるからだ。

 また、四篇を読むことで見えてくる意外な背景にも注目。それらは怪異・人の業どちらに起因するのか、ラスト一行を眺めながら考えていた。

千街晶之の1冊:『機龍警察 白骨街道』月村了衛(早川書房)

 ミャンマーで展開される「21世紀のインパール作戦」と、日本で進行する経済犯罪の裏から見え隠れする底知れぬ闇。このご時世に読むと、「この国はね、もう真っ当な国ではないんだよ」という特捜部の沖津部長の述懐が読者の胸に突き刺さること間違いなしである。著者が近年『東京輪舞』や『悪の五輪』などで磨いてきた「実在の人物・事件を架空の物語に絡ませる虚実皮膜の手法」が、「機龍警察」シリーズでこれほど効果を上げるとは予想していなかった。フィクションの力で現実と切り結ぶ月村了衛の凄絶なまでの覚悟が窺える傑作だ。

若林踏の1冊:『シンデレラ城の殺人』紺野天龍(小学館)

 わはは、これは愉快だ。継母や義姉のいびりを屁理屈で切り返す逞しいシンデレラが、自身に掛けられた王子様殺しの嫌疑を晴らすべく裁判で推理を繰り広げる。童話を題材にした謎解き小説はこれまでも多く書かれているが、なんと本作はあの「シンデレラ」とゲーム「逆転裁判」のような法廷バトルの要素を掛け合わせた物語になっているのだ。奇抜な設定に溺れず謎解き部分が緻密に練られている点も良い。おまけに強くて図太いシンデレラとツンデレな義姉の掛け合いという、前代未聞のパロディが用意されるなどユーモアもたっぷり。満足です。

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