『夏目友人帳』夏目はなぜ妖と人を変えていくのか? 命の数だけある孤独とそれを癒すぬくもり
他人にうまく踏み込むことのできない夏目が、妖相手にのびのびと交流していけるのは、彼らが“異なるもの”だと最初から知っているからだろう。わかりあえないのが当たり前。善悪の基準も行動原理も、違っていて当たり前。人間相手では、そうはいかない。心を預けた相手には、わかってほしいと期待してしまうし、拒絶されるのは怖い。妖が介入することによって、あたたかなぬくもりの中に、怯えがまざってしまうのもいやだ。大切な人たちは、安全な場所で健やかに暮らしていてほしい。そんなさまざまな葛藤が、夏目を臆病にさせる。大切な人が増えれば増えるほど、なおさらだ。
けれど、拒絶されるのが怖いのは、線を引かれるのがさみしいのは、相手だって同じなのだ。なかにはもちろん悪意をもって攻撃してくる人もいるけれど、心をやみくもに閉ざしたままでは、好意に気づくこともできない。夏目ほどではないが、妖の存在を感じとることのできる田沼と多軌。夏目が何かを抱えていると察しながら、夏目のすべてを受け止めてくれるクラスメートの北本と西村、そして藤原夫妻。彼らとの関係を通じ、誰かを真に大切にするということは、そのおそれを超えていくことなのだと、夏目は少しずつ知っていく。
そしてそんな夏目の変化が、周囲の人間をも変えていく。妖は使役する、あるいは容赦なく祓おうとする“祓い屋”の名取周一と的場静司。二人のスタンスは夏目とは真逆で、ゆえに友人帳の存在も決して明かすことはできない。だが、互いにすべてを信用することはできなくとも、人として、手をさしのべあうことはできる。根本から価値観を変えることはできなくとも、歩み寄ることはできるかもしれない。妖と人も、人と人も、踏み越えてはならないラインを探りながら、そうやって“友”になっていけたらどれだけいいだろう。
冒頭に書いた夏目のセリフは切ないけれど、それを聞いた北本と西村は、夏目を自転車に乗せて、支えてくれる。二人は夏目の事情なんてほとんど知らないけれど、つかのま、そうしてともに走ることはできるはずだから。
誰よりも孤独だったはずのレイコが、どういう経緯で夏目の母親を産んだのか? 26巻で描かれた的場家の悶着はどのように進展していくのか? など、物語としても気になるところは多々あれど、基本的に本作は、どのエピソードを抜き出して読んでも感じ入ることのできるつくりになっている。「いまさら追いつけないよ~」なんて思って敬遠している読者も、まずは一冊、手にとってみてほしい。妖と人の数だけ描かれる孤独と、それを癒すぬくもりは、きっとあなたが明日を生きる、力になってくれるだろう。
■書籍情報
『夏目友人帳(27)』
緑川ゆき 著
定価:495円(税込)
書籍:白泉社
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