「殺人」がキーワード? 文芸書ランキングで存在感を示す、“どんでん返し”づくめの極上ミステリ
2位『硝子の塔の殺人』の著者・知念実希人は現役医師であり、「天久鷹央」シリーズや『仮面病棟』など医療の現場を舞台にした作品で知られているが、デビュー10周年記念にあたる同作の舞台となるのは、雪深い森にたたずむ地上11階・地下1階の“硝子の塔”。そこに集められたのは、塔の主である生命工学科教授・神津島太郎による重大発表を待つゲストたち。だが神津が殺されたのをきっかけに、脱出不能の塔のなかで次々と不可能殺人が起きていく……。
本書刊行によせて綾辻行人が〈ああびっくりした、としか云いようがない。これは僕の、多分に特権的な驚きでもあって、そのぶん戸惑いも禁じえないのだが――。ともあれ皆様、怪しい「館」にはご用心!〉というコメントを寄せているが、ミステリオタクの名探偵が登場する本作は、ミステリが好きで読み繋いできた人ほど細部に興奮させられる一作。だからといって一般読者にハードルが高いかといえばそうではなく、曲者ぞろいのキャラクターや技巧の凝らされた展開に胸躍らされること間違いなし。
殺人、という単語は不穏だが、探偵という非日常の存在が活躍するミステリは、現実をつかのま忘れさせてくれる極上のアイテム。読めば、外出できないストレスを存分に発散させてくれるだろう。
自粛で時間をもてあましているならば、8位『陰陽師 水龍ノ巻』と9位『もういちど』もおすすめだ。
安倍晴明ブームの火付け役となった夢枕獏の陰陽師シリーズは35周年を迎え、17巻めとなる同作をふくめて累計720万部を突破した。『もういちど』は、病弱な若だんなと彼を愛するもののけたちが織り成す江戸物語「しゃばけ」シリーズの、なんと20作目。あやかし時代劇の両作が長く愛され続けているのは、主人公だけでなく脇にいたるすべてのキャラクターが魅力的だからこそ。読んだことのない人も、途中まで読んだけど日々の忙しさで追いつけなくなっていた…と言う人も、新刊が出たこのタイミングで、改めてぜひ。