『怪獣8号』は特撮映画とバトル漫画の良いトコ取り 隙のない展開で一躍大人気作に

『怪獣8号』隙のない展開が魅力

 怪獣モノという、漫画では見せ方の難しい題材を描く際に、『怪獣8号』はジャンプ漫画が得意とする仲間と共に成長していくストーリー展開やバトルの面白さを作品の中にうまく組み込んでいる。怪獣たちと防衛隊の戦いも知的な戦略シミュレーションとして描く一方でカフカたちが怪獣と直接対峙するバトル描写は、鳥山明の『DRAGON BALL』(集英社)等で積み上げてきたジャンプバトルの正道となっている。

 冒頭、カフカが抱えていた「おじさんの不安」という要素は遠のき、今後は仲間たちとの友情を育みながら怪獣を倒していく安定路線に入るかと思わせた刹那、より強い怪獣軍団が現れるという構成も実に見事で、息付く暇を与えない。

 知性を持った人型怪獣の目的がいまだ不明という謎が謎を呼ぶ展開も続きが気になるところで、巧みなストーリー展開は全く隙がない。

 なお、この3巻で『怪獣8号』コミックスの累計発行部数は250万部を突破。ジャンプ本誌の連載漫画でも本格的なヒットを迎えるには連載が起動に乗り、アニメ化された後というのが定番の流れとなっている中『怪獣8号』や遠藤達哉の『SPY×FAMILY』といった「少年ジャンプ+」連載のコミックスは、メディアミックスがはじまる前から異例の売れ行きを見せている。

 これは「無料で試し読み」ができるという漫画アプリの利便性がプラスに働いた結果だが、何より編集部が連載漫画を大切にしていることが読者に伝わり、作品に対する信頼へと繋がっていることが、大きいのではないかと思う。

 作品のクオリティはもちろんのこと、連載漫画を第一に考えるメディア戦略も含め、死角のない作りである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『怪獣8号』3巻(ジャンプコミックス)
著者:松本直也
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/list/kaiju8.html

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