働く女性たちに向けて書店員が選ぶ2冊 『お探し物は図書室まで』『蝶の眠る場所』
フィクションでしか伝えられないこともある『蝶の眠る場所』
水野梓のデビュー作『蝶の眠る場所』も、パートナーを不慮の事故で亡くしたテレビ局社会部記者であるシングルマザーの美貴を主人公にした小説だ。死刑に関する冤罪を題材にした力作のサスペンスだが、仕事を持ちながら子供を育てる母親の苦悩と様々な想いもテーマである。
事件に関する色々な人物が登場するが、クセのある仕事仲間も欠かせない。美貴の存在は母親という枠を超え、一人の人間として事件の本質を追っていく。そのなかで、仕事仲間と互いに認め合っていく過程が鮮やかに浮かび上がる。著者が冷静に傍から見ているというより、主人公の生き方に積極的に関わっていくところが、物語をさらに読み応えのあるものにしている。著者はプルーフ(刊行前、関係者向けに配布される簡易版の本)に掲載されたメッセージで次のように書いている。
〈事実でしか伝えられないことがある一方で、フィクションという手法でしか伝えられないことがあると思っています。〉
紹介した2作に共通しているのが、「繋がり」という言葉ではないだろうか。家族間の絆というより、周囲の人々や世間との「繋がり」。それが描かれているからこそ、主人公の子供がふと漏らす言葉が身に染みていく。そして読者である我々もかつて「子供」だった事を思い出し、誰もが当事者だという事をも気づかせる。著者達が自らのフィルターを通して、フィクションを丹念に描いた結果ではないか。
筆者が信頼しているとある出版営業の方が、荒天で保育園が休業して預けられない時、会社の了解の上で子供と一緒に出社したら、同僚たちが勤務中に何くれとなく子供の相手をしてくれたことを話してくれた。今はまだイレギュラーかもしれないけど、こういった雰囲気がもっと広まって欲しい。その入り口になるのが、真摯に現状を咀嚼しフィクションとして描き出す青山美智子や水野梓といった小説家の役割でもあるだろうし、そういった本を扱い販売するのは、出版社や書店員の大切な役目でもあるのではないだろうか。
■山本亮
埼玉県出身。渋谷区大盛堂書店に勤務し、文芸書などを担当している。書店員歴は20年越え。1カ月に約20冊の書籍を読んでいる。マイブームは山田うどん、ぎょうざの満州の全メニュー制覇。
■書籍情報
『お探し物は図書室まで』
著者:青山美智子
出版社:ポプラ社
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8008304.html
『蝶の眠る場所』
著者:水野梓
出版社:ポプラ社
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8008340.html