青山美智子 × 後藤由紀子 特別対談:背伸びしない、快適な生き方のコツとは?

青山美智子 × 後藤由紀子 特別対談

 『木曜日にはココアを』、『猫のお告げは樹の下で』などで知られる作家・青山美智子が新作『お探し物は図書室まで』を発表した。人生に悩む人々がふとしたきっかけで小さな図書室を訪れ、個性的な女性の司書が勧める本によって少しずつ運命が開いていくーー読み手の心を包み込み、一歩踏み出す活力をくれる短編集だ。

 リアルサウンド ブックでは、青山と、静岡県沼津市の雑貨店「hal」の店主であり、ライフスタイルに関する著書を数多く発表している後藤由紀子との対談をセッティング。気張り過ぎず、がんばりすぎず、人生をしなやかに進んでいる2人の対話には、自分らしく生きるためのヒントが散りばめられている。(森朋之)

図書室を物語の舞台にした理由

――今日の取材場所は、横浜市戸塚区の下郷小学校コミュニティハウス内にある市立図書室。青山美智子さんの新作「お探し物は図書室まで」に出てくる図書室は、ここがモデルになっているそうですね。

青山美智子(以下、青山):はい。息子は今高校2年生なんですけど、小学生のときに、ここから降りたところにあるグラウンドでサッカースクールに通っていて。送り迎えのときに図書室があることに気付いて、よくここで過ごしていたんです。6年ぶりに来たので懐かしいですね。

後藤由紀子(以下、後藤):『お探し物は図書室まで』、とても面白かったです。後半にかけて5つのお話がつながる構成も素晴らしくて、どんどん読み進めてしまいました。情景もすごく浮かんできて……この図書室、本を読んでいたときに思い描いてたときのイメージとすごく似ています。

青山:嬉しいです。今回の小説は、他の目的で来た人がふとしたきっかけで図書室に導かれる設定にしたくて。ここには研修室や和室もあって、マジックショーや寄席などもやっているし、図書室の規模もいい感じでこじんまりしているので、ちょうどいいなと。

――『お探し物は図書室まで』は、悩みを抱えた人たちが、図書室の女性の司書に勧められた本をきっかけに、少しずつ自分の道を歩き始めるという物語です。

青山:編集さんから「お仕事の小説を書きませんか」という話をいただいたのがきっかけだったんです。初めはハーローワークみたいな場所をイメージしていたのですが、誰でも会えて、無料で相談できるキーパーソンを考えていたら司書さんがいいなと思いついて。そこから図書室の設定に変わって、本がもうひとつの大きなテーマになりました。

後藤:本に登場するのは悩みを抱えた人ばかりですけど、司書さんと話して、本を紹介されるまでの流れに無理がなくて。育児をしながら出版社で働く女性編集者の話は、知り合いのケースに似てるなと思いました。定年後の夫婦の在り方の描いた章も興味深かったですね。

青山:丁寧に読んでいただいて、嬉しいです。プロットを詰めたのが今年の1月の終わりで、その後、コロナ禍になってしまって。コロナのことをどこまで小説に入れるかは、作家の方はみなさん悩まれていると思うんですけど、私は直接書くことはできなかったんですね。だけど、仕事に対しての考え方や「どんな状況になっても、変わらないものは何だろう?」など、コロナ禍のなかで感じたことは登場人物に言わせているところがあって。「安定している仕事なんてない」「みんなギリギリのところでやってる」「いま出来ることをやるんだ」といったセリフはまさにそうですね。

後藤:そういう心の描写にはグッときましたね。もちろん読み手によって受け止め方も違うと思いますけど。

青山:そうですね。あとはもう、読まれる方がそれぞれの状況を重ねてくださったらいいなと。私はほとんど読者の方に預けているというか、強いメッセージなどはないんですよ。私の手を離れたら、もう読者さんのものですから。

後藤:私もそうですね(笑)。出来上がった本を後で読み返すこともないですし。

青山:後藤さんの書籍をいくつか読ませていただいたのですが、似ている部分があるなと感じました。私は家事がぜんぜん出来ないし、もちろんお店を開くこともできないので、タイプは真逆なんですよ。でも、根底に流れているものが似ていて、色が違うけど、形が似ているマグカップみたいだなって。たとえば、競争が苦手なところだったり。

後藤:苦手ですね(笑)。ずっと負けっぱなしというか、最初から挑まないんですよ。

青山:私もそう。作家になって良かったなと思うのは、ライバルがいないことなんです。他の作家さんの本が売れると、本屋も賑わうし、出版業界全体が回り始める。そうすると、私の本を手に取ってもらえるかもしれないので。

後藤:そうですよね。私はそもそも、やりたいことしかやっていないし、嘘がないようにやっているので。

青山:嘘がないからこそ、同じような好みの方と共有できるんでしょうね。私達は年齢も近いので、たぶん同じようなものを見て育ったんじゃないかなって。たとえば少女漫画とか……。

後藤:『りぼん』『なかよし』ですね。

青山:一緒です(笑)。

後藤:ウチは3姉妹で、2つ上の姉と5つ下の妹がいて。姉とお小遣いを出し合って、『りぼん』と『なかよし』を買ってました。

青山:「ときめきトゥナイト」世代ですね(笑)。「ちびまる子ちゃん」も連載中から読んでいませんでした?

後藤:読んでました(笑)。

青山:以前、私の小説を読んで「陸奥A子の世界だ」とツイートしていた方がいて、「バレてる!」と思ったことがあって。今回の小説は司書さんが“付録”をくれるという設定なんですけど、それも少女漫画雑誌の付録がヒントになってるんです。

――多感な時期に触れた作品に今も影響を受けているんですね。

青山:そうだと思います。小説家になろうと思ったのは14才のときなんですが、コバルト小説がきっかけなんです。氷室冴子さんの小説が大好きだったんですよ。

後藤:14才で決めるなんて、早いですね。

青山:そこからが長かったんですけどね。デビューするまでに33年かかりましたから。『お探し物は図書室まで』のなかでも、作家志望の男の子に「年齢制限はない。その人のタイミングがあるんだから」という言葉を言わせていますが、それは私の気持ちでもあります。

後藤:そうなんですね。私はもともと食堂をやりたくて、その前はお母さんになりたかったんです。20代後半でお母さんになる夢が叶って、第一子が中学生なったら食堂をやろうと思っていたんですが、32才のときに入院して。「明日は来るとは限らない。やりたいことは早めにやろう」と思い、まずは経験があった雑貨屋を開いたんです。まだ上の子が小1だったから「まずは学童保育がある3年間だけ」というつもりではじめて、今年で18年目です。

青山:すごい!

後藤:ぜんぜんすごくないです(笑)。書籍を出すのは予定に組み込まれてなかったので、いまだにビックリしてますね。

青山:わかります。私は「作家になりたい」と妄想していた時期が長かったので、作家になってからも「本当に現実かな」と思ってしまうことがあって。朝起きたときに「夢だったのかも」と不安になることもあります(笑)。

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