ARMYは「他人の苦痛に共感できる能力」が高いーー『BTSとARMY』著者イ・ジヘンに訊く【後編】

人種差別に反対する象徴としてのBTS

ビルボードが気づいた世界とアメリカ国内のギャップ

 でも、変化がないわけではありません。たとえば、2020年からビルボードはシングルチャートの「Hot 100」以外に2つのチャートを新設しました。1つはアメリカを含めた世界200カ国以上の国と地域のデータをもとにした「Global 200」、もう1つはグローバルチャートからアメリカを除いた「Global Excl. U.S.」です。つまり、アメリカで愛される曲が世界的にヒットしている曲とイコールではないかもしれないということに気づいて、本当にワールドワイドに聴かれている曲を冷静に評価しようという試みなんですね。これを可能にしたのがBTSです。BTSはアメリカのセールス記録だけを見ると1位になったこともならなかったこともありますが、グローバルな記録で見るとBTSは常に1位でした。ビルボードとしても「アメリカのリスナーの趣向と世界のそれとは一致しないものかもしれない」ということに気づかざるを得なかったんです。

 アメリカの音楽授賞式であるグラミー賞が今後グローバルな方向に向かうとしたら、今の音楽市場がどう変化しているかを現状に沿って認識する必要があると思いますし、来年はより世界基準の音楽授賞式としての存在を示せるようになるといいなと期待しています。

ーーBTSに、というよりグラミー賞がどう変わるか期待したいですね。最後に、日本の読者のみなさんにメッセージをお願いします。

 たぶん読者の方はほとんどがARMYだとは思いますが、ARMYはどの国、どの地域にいても基本的にBTSが好きなだけで、その国を代表しているとは思っていませんよね。すごく個人的な感情としてBTSが好きなだけだと思います。ARMYの中で国の違いは単なる区分の標識のひとつで、差別の標識となるものではありません。

 私は、ARMYは「他人の苦痛に共感できる能力」が高い人たちだと思っています。なぜならARMYはBTSの歴史を自分たちの歴史として受け止め、連帯して、力を分け合ってきました。そういう人たちはまず「他人の苦痛に共感できる能力」が高い人たちだと思いますし、弱者が成功できる世界を応援できるのもARMYの特徴だと思います。これはBTSが持つインテグリティ、誠実で真摯である彼らの影響が大きいでしょう。日本のファンダムもBTSのこうしたいい影響を受けていることと思いますが、これを自分の内だけに留めず、身の回りの人に分けてあげられることを願っています。

書籍情報

『BTSとARMY わたしたちは連帯する』
著者:イ・ジヘン
翻訳:桑畑優香
出版社:イースト・プレス
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