東方神起、BIGBANG、BTS……K-POPの源流は1960年代に 小説『ギター・ブギー・シャッフル』が描く、韓国音楽シーンの誕生

『ギター・ブギー・シャッフル』レビュー

 東方神起、BIGBANG、EXO、SEVENTEEN、BLACKPINK、そして、BTS。いまや世界的な人気を得ているK-POP。小説『ギター・ブギー・シャッフル』は、現在のK-POPの源流である、1960年代前半の韓国の音楽シーンを生々しく描いた作品だ。

 ザ・ベンチャーズの名曲の題名を冠した小説『ギター・ブギー・シャッフル』の舞台は、1960年前半の韓国・ソウル。朝鮮戦争によって国の状況は一変し、多くの若者は貧困にあえぎ、未来に希望を持てないでいた。主人公のキム・ヒョンもその一人。製粉工場を経営した父親のもとで裕福な幼少期を過ごし、クラシックやジャズのレコードーーフルトヴェングラーのベートーベン交響曲から、ベニーグッドマン、デューク・エリントン、グレン・ミラーなどーーを聴き、ヴァイオリンを習っていたキムだが、戦争によって工場が倒産した後は、一気に底辺へと転がり落ちる。そして、孤児となった彼を支えていたのは、米軍のラジオ局から流れてくるジャズやロックンロールだった。

 最底辺の暮らしを続けていたヒョンは、旧友との再会をきっかけに、米軍基地内のステージで演奏するミュージシャンたちの“ボーヤ”になり、さらにいくつかの偶然が重なるなかで、ギタリストとしてステージに立つことになる……というのが、本作の大まかなストーリーだ。作者は、2012年に長編小説『ワンダーランド大冒険』でデビューしたイ・ジン。1982年生まれの彼女にとって、『ギター・ブギー・シャッフル』は3作目となる。

 朝鮮戦争が韓国の社会に残した大きな傷跡、軍事独裁政権下における日常を背景に、音楽に熱中し、過酷な時代を生き抜こうとする若者の姿を圧倒的なリアリティ、そして、まるでドラマや映画を観ているような映像的な筆致で描いた『ギター・ブギー・シャッフル』。ベストセラーとなった『82年生まれ、キム・ジヨン』をはじめ、ここ数年、多くの作品が日本語に翻訳されている韓国文学だが、これが初めての日本語翻訳版となるイ・ジンもまた、現代の韓国文学の充実ぶりを象徴する存在の一人と言えるだろう。

 ふだん音楽系のライターとして活動している私にとって、もっとも興味深かったのはやはり、“K-POPの原点である、韓国の音楽シーンの始まり”が生々しく描かれているということだ。

 1960年代前半、歌手、ミュージシャン、ダンサー、コメディアンなど、ショービジネスの世界を志す韓国の若者は、米軍キャンプ内にあるクラブで演奏することを必死で目指していた。その中心にあったのが、『ギター・ブギー・シャッフル』にも登場する米八軍駐屯基地、キャンプ・ギャリソン。広大な敷地内には米軍関係者のための学校や病院、テニスコートやゴルフ場、そして劇場が備えられていた。主人公のキムが楽器の運搬係として潜り込む<ニュースターダスト>は、人気と実力を兼ね備えたショー団で、スタンダードジャズから当時の最先端のポップス、ロックンロールなどでアメリカ兵から圧倒的な支持を得ていた。このストーリーの背景にあるのは、韓国の音楽シーンが、“アメリカ兵を相手に、韓国人のミュージシャンが演奏する”という構図から始まったという史実だろう。

 本作のヒロイン、キム・キキは19歳にして<ニュースターダスト>の看板を担う天才的なシンガーとして描かれているが、舞台で歌うのはもちろん、すべてアメリカのポップミュージックだ。ジョージ・ガーシュインの「スワニー」、エルヴィス・プレスリーの「本命はおまえだ」、そして、「ムーン・リバー」「ホールド・ミー、スリル・ミー、キス・ミー」などのスタンダードナンバー。キキが「我が心のジョージア」をハスキーボイスで歌い上げ、米兵たちが涙を流すシーンは(ライブの臨場感、息遣いが伝わる描写力を含めて)、本作『ギター・ブギー・シャッフル』の名シーンの一つだ。

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