BTSの物語を拡張する『GRAPHIC LYRICS』シリーズ イラストレーターとのコラボで示す、本の新たな表現

BTS『GRAPHIC LYRICS』シリーズレビュー

 BTSの歌詞の世界をイラストにして書籍化した『GRAPHIC LYRICS』シリーズが、7月3日に日本でも発売された。韓国では発売時に展示会も行われ、1週間で販売店である教保文庫ではベストセラーになっている。

 現在発売されているシリーズは「You Never Walk Alone」「Save Me」「House Of Cards」「Run」「Buttefly」のvol.1〜5。

 vol.1である「"A Supplementary Story : You Never Walk Alone”」は、コマ割り手法でストーリー性が高い。「一緒なら笑える」を主題にした『GRAPHIC LYRICS』シリーズでは、7名の少年が似たような経験を共有し、心を共有するのだが、その物語の導入らしく、少年たちの境遇と7名が次第に集まっていく姿を描いている。

 本作のイラスト手掛けたク・ジャソンは韓国のSNSで話題になった「狐の本」が有名だが、元々はビジュアルアーティストであり、「月刊ユン・ジョンシン」シリーズなどのアニメーションMVなども手掛けている。

 vol.2「Save Me」は、内面に傷を負う2名の少年に繰り返し訪れる悪夢とそれの打ち勝とうとする意志、そしてダンスを媒介としてお互いを癒す姿を描いている。本の装丁にはところどころトレーシングペーパーが使われており、重ね合わせる事で躍動感が出る仕掛けになっている。

 この作品の作画を担当しているイ・カンフンはアーティストで、雑誌のイラストレーションなどではラディカルな作風が印象に残るが、今作ではわざと少し版をずらした、版画のようでどことなくノスタルジックなイラストレーションがメイン。

 vol.3「House Of Cards」は、愛らしさと怖さが共存しているような動物のキャラクターや、コントラストが強く情報量が多い作風で、心を寄せられる場所を持たない2人の少年の憂鬱感と歪んだ幻影、それでも希望に向かって差しのばす手を表現している。縦型の天綴じ製本で上下にめくるウェブトゥーンのような構成になっており、奈落に落ちていく心理をエモーショナルに演出している。

 この作品を担当しているのは、イラストレーター、パク・ジョセフ。様々なパッケージや表紙にたずさわり自らもエッセイを出版している。

 vol.4「RUN」の特徴は、折り込みページの横スクロールゲームの様に最初から最後まで横長の絵として繋がっている構成だろう。日常を持て余すふたりの少年と、それぞれが抱く夢、また、夢を分かち合える親友でもあるお互いについて語るように、ひとつづきのページが同じ場所での時の流れを表現している。

 作画はDJ Peggy Gouのジャケットのイラストで有名なチェ・ジェウク。日常の風景を描きながらどこか非現実的なファンタジーの入り混じる世界観がマッチしている。

 最後の巻であるvol.5「Butterfly」では、ひとりの少年視点から、親友たち全員が一緒にいる場面へ。夢と現実、又は過去と未来、その間にあるどこかを行き来する姿が描かれている。

 Vol.5の「Butterfly」の世界は、イ・ギュテの作風でもある柔らかで明るい輝くような光に包まれている。

 ページが上下に分かれたセパレート製本により、主人公の少年と他の少年たちの姿やそれぞれが存在する場面・時間軸などが無秩序に入り混じる構成は、それぞれがバラバラになったまま無限の時間を行ったり来たりする物語を表現しているようだ。少年がとうとう思いを定めたようにどこかに向かっていくラストシーンは、また新たな物語の始まりを予感させている。

 ここVol.1〜5までのストーリーは、別々に存在しながらもお互いと繋がっている。これは、過去のBTSのいくつかのMVやショートフィルムや小説『花樣年華 THE NOTES 1』、Web漫画「花様年華 Pt.0 <SAVE ME>」等で繋がってきた、BTSの花様年華の世界観を再解釈及び拡大したものとも言える。

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