『シン・エヴァ』舞台にもなった宇部市、2045年はどうなる? 『ガンダム』SF考証家が描く、XRが一般化した未来

『ガンダム』SF考証家が描く未来

 便利だからこその問題も起こる。デバイスに介入することで現実には存在しないものを見せられるからだ。

 宇部岬高校に進学した時田砂漠という少年が、入学式で遭遇した事態も、そうしたハッキングによるものだった。体育館に車が飛び込んで来て、男がナイフを振り回して暴れ、国も認める天才少女、鳴神叡智花の首をかき切るビジョンを無理矢理に見せられた。

 この事件も含めて相次いで起こる〈拡張テロ〉や仮想世界が絡んだ謎に、リアル世界にいる砂漠と、主にバーチャル世界から参加する叡智花が挑む学園ミステリ的なストーリーが繰り広げられる。同時に、アフターパンデミックの世界が、XR技術の高度化を経てどのような社会になっているかを想像させてくれるSFにもなっている。

 『ソードアート・オンライン』の川原礫による『アクセル・ワールド』では、現実世界に重なるように仮想空間が存在していて、そこで少年少女がバトルを繰り広げている。スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』では、VRゲームの中で知り合った少年と少女が、ゲームデザイナーの仕掛けた謎を解こうとバーチャル空間を走り回っている。『青い砂漠のエチカ』では、現実世界と重なった仮想世界のレイヤーに仕掛けを施しておくことで、現実世界を移動した先々で仮想世界にアクセスし、密室ゲームのような謎解きに挑むエピソードが登場する。これらを合わせて読んだり観たりすると、XR時代の社会を想像しやすくなるだろう。

 「零号機」や「初号機」と名付けられた学生制作のパワードスーツにもユニークな機能が盛り込まれている。〈拡張テロ〉でハッキングされ、大集団を作って人間を襲撃し始めたドローンに、砂漠はパワードスーツを着こみ、合気道の経験を持つ叡智花の遠隔操作を受けながら立ち向かうのだ。

 未来的な二人羽織と言えば楽しげだが、これはデバイスや視聴覚を乗っ取り〈拡張テロ〉を起こす可能性があることも、同時に示している。押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』で清掃員が、自分に家族がいると信じ込まされていたような。

 仮想空間に分身となるアバターで参加している誰かは、本当に実在しているのかという問題もある。AIが個人の言動を記録してアバターを操作していても気づかないからだ。もしかしたら叡智花にもそんな可能性があるのか? 疑問は尽きない。とはいえ、「入学式のこと調べちょるん?」と山口弁で砂漠に話しかけ、以後も濃い山口弁で喋り続ける叡智花というキャラクターは空前絶後に愛らしく、実在していて欲しいと思わせる。

 そんな叡智花と砂漠とが、アニメなり実写映画になって動き喋ったら、とてつもないインパクトがあるだろう。宇部市が誇る偉大な庵野秀明監督に、ぜひとも手がけて欲しいところだ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書籍情報
『青い砂漠のエチカ』(星海社FICTIONS)
著書:高島雄哉
イラスト:珈琲
出版社:星海社

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