『SAO』『魔法科』『転スラ』……人気シリーズ最新刊がトップ3に ラノベ週間ランキング
まず18位。香坂マト『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います』は、大賞に次ぐ金賞を受賞した作品だ。
タイトルそのままに、ダンジョン攻略の冒険者たちを受け付ける仕事をしているアリナが、なかなか攻略が進まないため事務が滞り、残業が続いていることにキレて自らダンジョンに乗り込み、大槌を振るってボスモンスターたちを倒して回るという設定。レッサーパンダのOL烈子が、会社で溜まった鬱憤を、カラオケでデスメタルを歌って晴らす『アグレッシブ烈子』にも似たギャップが楽しそうだ。
そそる要素が多い金賞作品に上を行かれたが、大賞となった菊石まれほ『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』も21位につけた。「まるで現代のシャーロック・ホームズだ」「ヒエダ電索官、読書がお好きですか?」「最初、きみのことをR・ダニールだと思ったくらいには」といった会話が出てくると聞いたら、ミステリ好きでSF好きならきっと読みたくなるだろう。
ホームズは言わずと知れたコナン・ドイルの小説に登場する名探偵。そして、R・ダニールはアイザック・アシモフのSFミステリ『鋼鉄都市』などに登場するロボットで、人間の刑事と組んで難事件を解決している。『ユア・フォルマ』はそんな、ホームズものやアシモフのシリーズが好きな人を喜ばせる要素が満載の作品だ。
医療技術の発達から生まれた、脳内に張りめぐらされ、感覚から感情まで記録した糸〈ユア・フォルマ〉が、人間を端末など使わずあらゆる情報にアクセス可能な存在に変えたが、そうした技術に関わる事件も起こるようになった。登場したのが、〈ユア・フォルマ〉にダイブして手がかりを探す電索官。物語は、突出した能力を持つが故に、ダイブをサポートする電索補助艦官を壊してばかりいたエチカという少女の電索官が、ハロルドと名乗るイケメンの相棒を得て、〈ユア・フォルマ〉を操作し人に吹雪を見せ、体温すら奪うウイルスの出所を追う。
このハロルドの正体が意外。エチカを花澤香菜、ハロルドを小野賢章という共にトップ声優で、結婚もしている2人が演じたスペシャルPVや、宣伝コピーにも使われている言葉を使えばロボットで、訳あってロボットを忌避していたエチカを戸惑わせる。そんな関係の2人が推理をめぐらせ捜査を続け、事件の真相に迫るミステリとしてのスリリングな展開を味わえる。同時に、ハロルドが見せる感情らしきものが、本当に人間と同じものなのか、それとも状況に応じてプログラムされたデータから適切なものを引っ張り出しているだけなのかといった、AIと人間の境目についても考えさせられる。
銀賞の土屋瀧『忘却の楽園I アルセノン覚醒』は57位。戦乱の果てに陸が減り、滅びへと向かっていた人類が、統治機構を置いて武器と科学と信仰を抑制し、一致団結して再生を目指そうとするものの動きを引っ張る「旧世界病」が世界を蝕む。戦乱の中でばらまかれた汚染物質が原因で、治療法の要となる存在をめぐるやりとりが話の基本線。そこに絡んで、最高統治府に新たに採用された主人公のアルム、友人のクリストバル、王国の姫でもあるオリヴィアがそれぞれの仕事の現場で動いた先、再会して収束する構成が巧い。汚染物質により人が影響を受ける世界観が『風の谷のナウシカ』を思い出させる。
もう1つの銀賞で、107位の駿馬京『インフルエンス・インシデント Case:01 男の娘配信者・神村まゆの場合』は、お姉ちゃんキャラの女子大生とエキセントリックな女性教授、そして女装男子がインターネットを基点にした事件に挑むラブコメ&ミステリで、登場するキャラクターに特徴があって楽しめる。以上、順位には差があるが、それぞれにしっかりとした世界観を持っていて、キャラクターも強烈で、読ませるストーリーを持った作品ばかり。第23回の大賞となった安里アサト『86-エイティシックス-』や、第24回で銀賞の瘤久保慎司『錆喰いビスコ』が続々とアニメ化を決めている。同じように人気を得て電撃の看板に育つシリーズはあるのか。手に取って見極めて欲しい。
■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。