神様だって悩みがある!? 累計160万部「神様の御用人」シリーズが支持される理由
本 ライトノベル 週間ランキング(2021年1月11日~17日・Rakutenブックス調べ)
1位『薬屋のひとりごと10(ヒーロー文庫)』日向夏、しのとうこ 主婦の友社
2位『新・魔法科高校の劣等生 キグナスの乙女たち(1)(電撃文庫)』佐島勤、石田可奈 KADOKAWA
3位『神様の御用人9(メディアワークス文庫)』浅葉なつ KADOKAWA
4位『ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編4(MF文庫J)』衣笠彰梧、トモセシュンサク KADOKAWA
5位『ソードアート・オンライン25 ユナイタル・リングIV(電撃文庫)』川原礫、abec KADOKAWA
6位『弱キャラ友崎くん Lv.9(ガガガ文庫)』屋久ユウキ、フライ 小学館
7位『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…10(一迅社文庫アイリス)』山口悟、ひだかなみ 一迅社
8位『りゅうおうのおしごと!14(GA文庫)』白鳥士郎、しらび SBクリエイティブ
9位『悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される11(ビーズログ文庫)』ぷにちゃん、成瀬あけの KADOKAWA
10位『わたしの幸せな結婚 三(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
ランキング:https://books.rakuten.co.jp/ranking/weekly/001017/#!/
Rakutenブックスの週間ライトノベルランキング(2021年1月11日~17日)で、最新刊の『神様の御用人9』(メディアワークス文庫)が3位に入った浅葉なつ〈神様の御用人〉シリーズ。これを読むと、スマホやネットでのリモート参拝が推奨された2021年の正月に、参拝者が来なくて神様や仏様が寂しい思いをしたかというと、案外に状況に適応していて、ネットでご利益を返していたかもしれないと思えてくる。シリーズに出てくる神様たちが、みな実にくだけていて世情にも通じているからだ。
京都の道端で、豆餅をのどに詰まらせ、苦しそうにしていた老人を助けた萩原良彦という青年に、老人が緑色の冊子を手渡して去っていった。「志那都比古神」とか「天之久比奢母智神」といった、神様の名前らしいものが書かれてあった冊子こそが宣之言書(のりとごとのしょ)。白紙のページに、願い事がある神様の名前が浮かび上がったら、持ち主は御用人としてその願いをかなえる必要があった。
老人から受け取った宣之言書に、新しく浮かび上がった方位神からそうした説明を聞いた良彦は、黄金という名で狐の姿をした方位神の、抹茶パフェが食べたいという願いを聞き届ける。以後、神様の御用人となった良彦は、ビル清掃のアルバイトの合間に、京都だけでなく奈良から和歌山から遠く九州や関東まで、全国をまわって神様たちの願いをかなえて歩くようになる。
そこで出会う神様たちがみな個性的。妙に人間くさいところがあって親近感を抱いてしまう。夜のゴミ置き場で酔いつぶれていた女性を連れ帰り、介抱したら何と大国主神(おおくにぬしのかみ)の妻で須佐之男命(すさのおのみこと)の娘の須勢理毘売(すせりびめ)。旦那の大国主神が浮気性で、あちこち出歩いては女性に声をかけまくるのに怒って飛び出し、先斗町あたりを飲み歩いていたらしい。
須勢理毘売を追いかけて来た大国主神はといえば、懲りもしないで良彦の知人の少女に結婚しようと声をかけ、妻のさらなる激怒を誘う。そんな2人の喧嘩に、御用人として巻き込まれる良彦はたまったものではないが、端で見ている分には面白い。
6巻では東京のど真ん中、千代田区大手町にある将門塚に祭られている日本三大怨霊のひとり、平将門が登場して豪放磊落なところを見せてくれる。恨みは今も深いらしく、自分を討った藤原秀郷の子孫らしいサラリーマンを街中で見つけて祟ろうとするが、金縛りに遭わせても妹へのメールや手紙を届かないようにしても、すべてスルーされてしまう。あの将門が祟りというよりただの嫌がらせを必死に繰り出す様が笑える。
奈良は葛城の一言主大神(ひとことぬしのおおかみ)といえば、吉凶を一言で言い放つ神様として、『古事記』や『日本書紀』にも登場するほどの存在。それが、『神様の御用人』の1巻では、少年の姿で社に引きこもってオンラインゲームに没頭し、眷属を困らせている。信仰する人が減って、力もやる気も削がれたからという理由は分かるが、それで神様をひきこもりの少年にしてしまう着想がユニークだ。
そんな一言主大神と良彦は、オンラインゲームの趣味が一致して親しくなり、一言主の悩みを解きほぐしていく。実は良彦も、少し前までニートのゲーマーだった。高校時代には球児として甲子園にも出たが、大学野球を経て入った会社の野球部でケガをした上に、不況で野球部が廃止となって居づらくなり、辞めてしばらく家に引きこもっていた。〈神様の御用人〉シリーズはそんな良彦が、人間と同じように様々な悩みを抱える神様たちの御用を聞いて走り回る中で、自分を見つめなおしてやりたいことを探していく、再起の物語にもなっている。
悩める神様の側に立ってカウンセリングを受けている部分があり、元ニートとして社会復帰への足がかりを探している部分もあるこの物語が、世知辛い世の中に迷っている人たちの気持ちを誘った。これが、累計160万部のベストセラーになっている理由かもしれない。
日本の全国に祭られている八百万の神様たちについて学べる上に、神仏が信仰の衰退によって力を失いかけている描写を通して、変化する信仰のあり方についても感じ取れる。そんな物語もクライマックスにさしかかっていて、最新の9巻では、日本を東と西に分けて守護していた神様たちのうち、東の神様が現状を憂いとんでもないことをしでかそうとする。良彦は止められるのか。続きが描かれる3月25日刊行の第10巻が待ち遠しい。