『異世界かるてっと』を牽引する人気作『オーバーロード』は“サラリーマン社会”の苦悩を映す?

『オーバーロード』はなぜ人気なのか?

 『異世界かるてっと』をご存じだろうか。テレビアニメのタイトルで、その名のとおりに異世界に転生、または転移した主人公たちが登場する4つのライトノベル作品がクロスオーバーした、コメディタッチのアニメだ。

 登場するのは、カルロ・ゼン『幼女戦記』、丸山くがね『オーバーロード』、暁なつめ『この素晴らしい世界に祝福を!』、長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』という、いずれもネット連載から始まり、KADOKAWAから書籍版が刊行され、アニメ化が行われたライトノベル作品。『このすば』の900万部を筆頭に、『オーバーロード』が800万部、『Re:ゼロ』が550万部、『幼女戦記』が400万部と、どれもシリーズ累計発行部数が凄まじい数になっている。

 同じようなネット発の異世界転生・転移ものでは、伏瀬『転生したらスライムだった件』が累計1800万部と4作品を上回り、香月美夜『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』も200万部とかるてっと組に迫っているが、発行元がKADOKAWAではないため、かるてっと入りは果たしていない。KADOKAWAからは780万部の弥南せいら『盾の勇者の成り上がり』が、アニメ第2期の『異世界かるてっと2』に参戦を果たしたものの、かるてっと(四重奏)からくいんてっと(五重奏)にはならないところを見ると、4作品の格の違いも見えてくる。

 そんな4作品でも、いくつかの面で抜きんでている作品が『オーバーロード』だろう。まず開始時期。『このすば』や『転スラ』が連載された小説投稿サイト「小説家になろう」ではなく、「Arcadia」に2010年から連載されていた最古参組だ。そして、主人公が4作品中でおそらく最強。名をアインズ・ウール・ゴウンという主人公は、不死身のアンデッドにして強力な魔法詠唱者。舞台となっている世界で、ひとりひとりが人間の軍隊に匹敵する強さを持った階層守護者たちを従え、亜人種や異形種の軍勢を率いて国々を傘下に収め、時には滅亡へと追い込む。

 幼女の姿でありながらずば抜けた魔力を持ち、ドイツに似た帝国で戦勝を収め続ける『幼女戦記』のターニャ・デグレチャフも、しょせんは一介の軍人で、世界を相手に戦って勝てるほどの強さはない。『このすば』の佐藤和馬も『Re:ゼロ』のナツキ・スバルも、現世の平凡な男子のまま転生・転移して、最強にはほど遠い境遇から仲間たちの助けを得て冒険を繰り広げる。

 上官の命令で激戦地へと放り込まれ、「どうしてこうなった!!!」と叫びながら戦うターニャの苦労を見たり、個性的な仲間たちとワイワイガヤガヤとしながら異世界生活を送る和馬やスバルの日々を眺めたりするのも楽しいが、『オーバーロード』のアインズが繰り出す圧倒的な強さが、世界を蹂躙していく様を追うのはまた格別。なおかつその過程でめぐらさられる謀略にスパイものの味があり、国どうしのぶつかり合いに戦記ものの妙があり、個々の戦いにバトルものの興奮がある。

 アインズ・ウール・ゴウンは、元は鈴木悟というサラリーマンだったが、仲間たちと楽しんでいたフルダイブ型のMMORPG「ユグドラシル」がサービス終了日を迎え、最後までプレーを続けた自分ひとりで終了時間を待っていた。ところが、終了時間が過ぎてもログアウトが起こらず、アンデッドのアバター姿のまま現実に戻れなくなってしまった。

 なおかつ、仲間たちと作り上げ、拠点としていたナザリック地下大墳墓の階層守護者に配していたNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)たちが、意思を持ったように言葉を話して動き出した。調べると、ゲーム内だったはずの舞台がどこかの異世界に転移していた。鈴木悟はモモンガというアバター名をギルドと同じアインズ・ウール・ゴウンへと改め、ナザリック地下大墳墓を拠点に世界へと討って出る。

 そして始まった、アインズによる進撃と蹂躙と物語が、巻を重ねてたどりついたのが、3月12日に発売となり、目下ベストセラーとなっている『オーバーロード14 滅国の魔女』(KADOKAWAエンターブレイン)だ。

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