第41回 日本SF大賞ノミネート作品、栄冠を掴む作品は? 『タイタン』から『100文字SF』まで、総ざらい

第41回 日本SF大賞候補作品をおさらい

 今回の日本SF大賞には、アンソロジーが2作品ノミネートされた。ひとつは『なめらかな世界と、その敵』(早川書房)が前回の日本SF大賞にノミネートされた伴名練が編者となった《日本SFの臨界点》(ハヤカワ文庫JA)全2巻、もうひとつは劉慈欣『三体』の世界的な人気で注目を集める中国SFを、翻訳者として紹介してきた立原透耶の編による『時のきざはし 現代中華SF傑作選』(新紀元社)だ。

《日本SFの臨界点》伴名練(編)(ハヤカワ文庫JA)
《日本SFの臨界点》伴名練(編)(ハヤカワ文庫JA)

 伴名練の編著には、中井紀夫の「死んだ恋人からの手紙」や、芥川賞作家の円城塔による「ムーンシャイン」、柴野拓美が主宰したSF同人誌「宇宙塵」で初期に活躍した光波耀子の「黄金珊瑚」など、幅広い作品の中から現在読むのが難しくなっているSF短編が集められた。『時のきざはし』は、劉慈欣と並び「中国SF四天王」と称される王晋康、韓松、何夕や、ハードSFの江波、若手で注目株の陸秋槎らを紹介。ますます隆盛が見込める中華圏のSFを知ってもらう機会を作った。

『時のきざはし 現代中華SF傑作選』立原透耶(編)(新紀元社)
『時のきざはし 現代中華SF傑作選』立原透耶(編)(新紀元社)

 立原透耶は中華圏SF作品の翻訳・紹介の業績に対しても、今回の日本SF大賞へのノミネートが行われている。なぜ作品でなく編著や活動がノミネートされるのか、といった声もありそうだが、日本SF大賞は、フィクションによってもたらされるSF的想像力への驚きにのみ、与えられるのではない。編纂のような活動を通して、SFの発展に寄与した場合にも与えられるものである以上、ノミネートも当然で受賞があっても不思議はない。気になる選考は2月下旬。どの作品の上に栄冠は輝くか。手に取って読みながら発表を待ちたい。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

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