加藤シゲアキ『オルタネート』が問う、SNS時代の人間関係 マッチングアプリは青春をどう塗り変える?

『オルタネート』に見る、加藤シゲアキの姿

 NEWSの加藤シゲアキによる長篇小説『オルタネート』をめぐっては、直木賞ノミネートが話題になったことも記憶に新しい。現役アイドルの作品の直木賞候補と聞くと、いかにも話題作りのように聞こえるかもしれないが、2012年の小説家デビュー以来、シゲが小説家として着実にキャリアと実力をつけていることは強調しておきたい。

 さて、本作『オルタネート』の舞台となるのは、基本的に円明学園という高校である。タイトルにもなっている「オルタネート」というのはSNSマッチングアプリのことで、高校生限定で「個人の認証が必要で匿名性がない」のが特徴だ。

 物語の中心人物は、円明学園の調理部部長である新見蓉(にいみ・いるる)、高校生になって「オルタネート」に張り切る伴凪津(ばん・なづ)、それに、円明学園に通う安辺豊(あんべ・ゆたか)に会うために上京した楤岡尚志(たらおか・なおし)の3人である。彼ら3人を中心としながら、さまざまな人物の交流(オルタネート!)を描いたのが『オルタネート』という作品だ。

 そんな本作の特徴はなにより、マッチングアプリを通じた人間関係が描かれたことである。本作においてマッチングアプリは、単なる同時代的なアイテムとして扱われているわけではない。SNSが登場して以降の悩みや葛藤というものが、少なからず存在する。

 例えば、尚志が小学校のときに転校した豊を追うことができたのは、豊がオルタネートに登録していたからだ。豊のギターに対する思いは、SNS以前の時代ならあきらめざるを得なかったものだったかもしれない。しかし、オルタネートがその思いをぎりぎりつなぎとめる。尚志はオルタネートの存在ゆえに豊のギターへの未練を断ち切ることができなかったと言える。あるいは、オルタネートに心酔する凪津は、「ジーンマッチ」(遺伝子情報を利用したマッチング)で出会った桂田武生(かつらだ・むう)との関係に悩む。凪津にとって桂田は、オルタネートがなかったら接点すらなかったはずの人物だ。作中の「オルタネートに裏切られたような感覚と、信じきれない自分を責めるような感覚」に引き裂かれる凪津は、明らかにSNS以降の時代を生きている。

 一方で、そんなSNS的な人間関係から少し距離を取るのが、オルタネートに登録していない蓉である。蓉は「デジタルな人間関係に囚われず自然体でありたいという信念」から、オルタネートに登録にしていない。しかし、調理部の後輩である山桐えみくに歩み寄るためにオルタネートを始めようかとも考えている。オルタネートに登録していない蓉もすでに、SNS的な人間関係に巻き込まれているのだ。それは、アカウントを作っただけでほとんどオルタネートを使用していない豊においても同様だ。

 本作に登場する人物たちは、オルタネートに登録していようがいなかろうが、SNS以降の人間関係を生きている。SNS以降の人間関係とはなにか。それは、なんとなくはつながっているような、しかし、本当にはつながっていないような、そんなあやふやで不確かな人間関係である。本作で中心的に示されているのは、このようなあやふやで不確かな人間関係である。

 そもそも、ゆるやかにつながっている/つながっていない断章形式自体、そのようなSNS的世界観と呼応させたものだ。そんなSNS以降の物語で描かれるのは、作中に登場する人物たちが不確かな人間関係を確かなものにしていくさまである。もう少し言えば、自分を取り巻く人間関係を確かにすることを通じて、自分自身を確かなものにするさまである。蓉は料理を通じて、尚志は音楽を通じて、凪津は対話を通じて、それぞれに10代後半らしく成長をする。「成長する grow」とは「育つ grow」ということである。終盤に凪津が叫ぶ「私は私を育てる!!」という一節は、その意味で重要なものだ。本作のテーマは「いかに育ち、確かなものを手にするか」ということだ。

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