加藤シゲアキから届いた絵葉書のように……『できることならスティードで』旅情をさそう繊細な筆致

加藤シゲアキから届いた絵葉書のように……『できることならスティードで』旅情をさそう繊細な筆致

 NEWSの加藤シゲアキが、初のエッセイ集『できることならスティードで』を上梓した。テーマは「旅」。タイトルにある「スティード」は、加藤が高校生時代に憧れていたホンダのバイクの名前から取ったもの。「スティードで行けたらいいなという場所を書いた」と語っている。(参照:加藤シゲアキ著『できることならスティードで』著者メッセージ【公式】https://youtu.be/roFLhghyjmk)

 キューバ、ニューヨーク、パリ、スリランカ、大阪、岡山……各地を旅して、どんな人と出会ったのか、どんな風景を見て、何を感じたのか。加藤らしい繊細な描写によって鮮やかに脳裏に浮かぶ。

 1つの章を読み終えた瞬間に包まれるのは、旅先にいる加藤から絵葉書をもらったような幸福感。サラサラと読みすすめることもできるが、それはあまりにもったいない。1章を読み終わってはまぶたを閉じ、深呼吸をして、余韻をしっかりと味わいたくなる。そんな1冊だ。

 自家製の梅干しを漬けるなど、料理を得意とする加藤。「食事というのはもっとも身近な旅と言える」というように、この本は実際に足を運んだ旅行記だけにとどまらず、概念の「旅」も登場。舞台で多忙な時期の「旅」では、ブラジルのパン「ポン・デ・ケイジョ」づくりに挑戦したエピソードが披露される。部屋中に放がるチーズの濃い香り、できたてのアツアツ感、もちもちとした食感……丁寧にレシピも記載されているので、彼が堪能したショートトリップを一緒に味わってみたくなる。

 さらには、肉体の中身に迫る旅、過去の自分に会いに行く旅、そしてアイドル“加藤シゲアキ“の父であるジャニー喜多川氏との思い出の旅……この本そのものが、加藤シゲアキという人の人生を垣間見る、私たちの読者の「旅」とも言えそうだ。

 加藤は1987年7月11日生まれの32歳。作中でも「若手の長老、ベテランのルーキー」と表現される通り、もう若手にも戻れず、ベテランにもいきつけていない微妙な年頃だ。だが、そんな中途半端に感じる年齢だからこそ、見えてくる世の中の本質があったりする。それは、旅人だからこそ、訪れた土地や飛び出したふるさとの魅力を客観的に見つめることができる感覚に近い。

 私たちの人生は旅そのものだ。一生、同じところに立ち止まっていることなんてできないのだから。時々、物理的にも旅に出るのは、自分が人生という旅路において、今どこにいるのかを再確認するためなのかもしれない。

 かつての居場所(思い出)は、どんどん美化されていくものだ。本当に美しい思い出も中にはあるが、現実は赤面必至な過去だったりもする。だが、加藤はその過去の自分が『UR not alone』(NEWS)の歌詞にあるように、力を貸してくれると表現している。〈共に乗り越えてきたじゃないか〉と。そのフレーズに、加藤の不器用に刻まれた足跡を連想して胸が熱くなる。

 一方、未来(行ったことのない場所)は、不安とワクワクが入り交じるもの。それなりの準備をするけれど、出発を中止しなければならないトラブルに見舞われることもある。だが、それこそが旅(人生)なのだろう。残念ではあるものの、そんな「旅立てなかった旅」という経験も、新しい景色ともいえなくない。旅の目的はいつだって「見たことない景色を見たい」なのだから。

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