加藤シゲアキ『オルタネート』は新時代の青春小説の傑作だーー物語は想像を超える感動へ

加藤シゲアキ『オルタネート』書評

 泣かされた。

 アイドルグループNEWSのメンバーであり、映画化もされた小説『ピンクとグレー』(KADOKAWA)で鮮烈なデビューを果たして以降、作家としても数々の話題作を執筆してきた加藤シゲアキによる、3年ぶりの新作長編『オルタネート』(新潮社)を読んだ。

 連載初回が掲載された号は予約殺到、歴史ある雑誌において史上初の緊急重版が行われるほど話題となった「小説新潮」での連載作品である。先日、第164回(2020年下半期)の直木賞候補作品に選ばれたことでも話題となった。こういった話題性について言及すると、「アイドルだから」と言う人も多いだろう。だが、著者が「アイドル」であるという色眼鏡を完全に抜きにして、この本は面白かった。

 彼はアイドル、作家という職業を、別個のものとして並行して真摯に取り組み、それぞれの分野において多くのことを吸収し蓄積し続けてきたからこそ進化を遂げてきたのだろうことがわかる面白さだ。

 芸能界や、彼の人生にゆかりある渋谷とは関係のない、架空の現代を生きる高校生たちの群像劇である『オルタネート』の中には、芸能界を生きてきた彼の人生は微塵も存在しない。だが、加藤自身が「創作なのに、これは間違いなく僕の物語です」と言及しているように、時折「アイドル」、「作家」という相容れない2つの世界が見えないところで混ざり合い、アイドルとしてこれまで生きてきた日常の中で生まれ出たのだろう感情が、作家として生みだす創造物の中に滲み出てうまく作用している。「加藤シゲアキの本」としてこの本を語るなら、そんな凄みのある本だと言える。

 一方で、「加藤シゲアキの本」という意味合いだけでこの本を語るのは勿体ない。なぜならこれは、紛うことなき新時代の青春小説の傑作だからだ。舞台は、高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が必須のウェブサービスとなった現代。あくまで架空の現代だが、「アプリに自分のスマホにある情報を渡せば渡すほど精度が増してより高度にマッチする人を探してくれる」マッチングアプリに、遺伝子解析が加わるというエピソードは、そろそろ実現してもおかしくない話である。

 また、動画配信で一躍有名人になった同性の高校生カップルが、ビジネスパートナーでしかなくなってしまった関係に違和感を抱き、破局するというエピソード、全国配信の高校生料理コンテストとそれによる炎上騒ぎ等、「マッチングアプリ」ではなくともSNSはじめネット上のコミュニケーションツールや自己表現ツールと日常が密接に絡み合っている、今を生きる高校生の現実に限りなく近い物語であると言える。

 主な登場人物は、全国配信の料理コンテストでの失敗がきっかけで「オルタネート」を忌避する調理部部長・蓉(いるる)と、男運のない母親との軋轢により、自分の直観ではなく「オルタネート」を過度に信奉する凪津(なづ)。そして、高校を中退し、「オルタネート」の資格を失いかつてのバンド仲間・豊を探す手段がなくなったため、大阪から単身上京し、直接会おうと彼のいる高校に押しかける尚志という、「オルタネート」に対してそれぞれ全く違う温度差で向き合っている3人である。

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