『食堂かたつむり』から『とわの庭』へ 小川糸が描く“母娘の確執”の物語はさらに過酷で壮大に
小川糸作品のヒロインたちは皆優しい。『食堂かたつむり』の倫子が、家財道具一式を持ち逃げして蒸発した恋人に対し、そのショックで声を失ったにも関わらず、愛し合っていた頃の思い出だけを抱いて、過度に憎しみを抱くことなくひたむきに生きていくように。とわもまた、彼女の元から去っていった人々を無理に留め、悲嘆に暮れることはない。自分を死の寸前まで追い詰めた母親のことを彼女はどこまでも気遣い、「優しく抱きしめてあげたい」と願っている。
この物語は光だ。物語自体が発光している。とわにとっての最初の光は母であり、外の世界に出てからは盲導犬のジョイが光となった。そして彼女自身がリヒトの光になったりもした。
「今、わたしを取り囲んでいるのは、圧倒的なまぶしさの美しい光だ。手を伸ばせば、そこに光を感じる。(中略)わたしは、守られている。いつだって、光そのものに抱きしめられている」ととわは言う。光は美しい「とわの庭」を照らし、物語の世界を満たし、そしてこの物語を読んでいる我々読者の日常をも、優しく照らしてくれるのである。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。
■書籍情報
『とわの庭』
著者:小川糸
出版社:新潮社
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