『はめふら』だけじゃない! 様式にとらわれない「悪役令嬢もの」の世界

様式にとらわれない「悪役令嬢もの」3作品

推しキャラの妹に転生『悪役令嬢、ブラコンにジョブチェンジします』

 最後に紹介するのが、『悪役令嬢、ブラコンにジョブチェンジします』(浜千鳥著、角川ビーンズ文庫)。こちらは新しいシリーズで、最新刊は第2巻。まだ巻数は少ないものの、主人公の前世であるアラサー社畜の人格を強く残した語り口や、最推しキャラの妹に転生してブラコン道を突き進む設定が強いインパクトを残す。

 ブラック企業で働くアラサー社畜SEの雪村利奈は、心の潤い求めて乙女ゲームに手を出し、妹のエカテリーナを溺愛するサブキャラ・アレクセイにハマる。やがて彼女は過労死するが、乙女ゲームの悪役令嬢エカテリーナとして転生した。前世の推しキャラの妹に生まれ変わった利奈は、シナリオ通りの破滅フラグと、多忙な日々をおくる兄の過労死フラグを回避しようと動き出す。

 本作の主人公は前世の人格が強く残り、元社畜で歴女でもある利奈による怒涛の突っ込みが入りながら進む。展開を解説する心の声や、社畜あるあるネタ、異世界の出来事をいちいち日本の歴史に置き換えて理解しようとする姿は軽妙で楽しい。最大の特徴である重度のブラコン・シスコン設定も、不幸な境遇に置かれた兄妹が互いを労わる家族愛という背景があるため、仲良しぶりに説得力が加わる。

 第2巻では公爵家の事業に関するが話題が増え、領地で産出する宝石や織物を売り込み、前世の知識を活かしたガラスペン作りで工房と職人を救うなど、物語は産業面でも広がりをみせる。兄妹話がメインゆえに現時点での恋愛色は薄いが、エカテリーナと友情をはぐくむ正ヒロインのフローラや、王道攻略キャラのミハイル皇子との関係性の変化にも注目したい。

 悪役令嬢小説はすでに膨大な作品がある一大ジャンルであり、その数は今後ますます増えていくだろう。定番の様式美を持ち、そしてその様式美から飛躍しようとするさまに、作品ごとの独創性が生まれる。そんな個性がせめぎあうこのジャンルに飛び込み、お気に入りの作品を見つけ出す読書は、宝さがしのように心躍る時間になるはずだ。

■嵯峨景子
1979年、北海道生まれ。フリーライター。出版文化を中心に幅広いジャンルの調査や執筆を手がける。著書に『氷室冴子とその時代』や『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』など。Twitter:@k_saga

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