『かぐや様は告らせたい』は“素直が一番”な時代のラブコメだ 『はめふら』とも共通する構造を分析

『かぐや様は告らせたい』ラブコメとしての新しさ

 スマホとSNSが普及して以降の私たちが生きる社会では、人間関係に対するこざかしい戦略、ウラオモテのある振る舞いが急速に通用しなくなってきている。マンガ『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』は逆接的に、コミカルに、このことを示している。

 『かぐや様』の舞台はエリートが集う名門校・秀知院学園。生徒会メンバーの副会長・四宮かぐやと会長・白銀御行は互いに惹かれ合っているが、ふたりともプライドが高いがゆえに自分からは告白できず、「どうやって相手に告白させるか」を企む――というのが序盤の展開だ。だがだんだんと頭脳戦要素は減り、素直ではないが好意が漏れまくっているふたりのラブコメになっていく。

すべてが記録されうる時代――悪事も恥ずかしいやりとりも

 さて、では今、私たちが生きている社会とはどんなものだろうか?

 文春オンラインが某出版社の有名男性編集者による女性フリーライターに対するいわゆる「クソLINE」(男性から女性に対する性欲丸出しのLINE)を公開して話題になったことは記憶に新しい。Black Lives Matter運動のきっかけとなった白人警官によるジョージ・フロイドさん殺害事件は、第三者に撮影されていた映像がSNSにアップされたことで世界中に拡散された。me too運動が広まったのも、業界内の重鎮からのセクハラに対して密室や狭い世界では封殺されていた不正が、SNSを通じて世間を味方に付けることで告発することが可能になったからだった。

 近年、K-POPなどのアイドル業界では、大手事務所ほど実力のみならず性格も非常に重視されている。

 対照的に、1980年代には日本のアイドル界では「ぶりっこ」という言葉が飛び交っていたくらいで、接する相手の性別によって態度を変える、カメラや記者がいるところとそうでないところで態度を変えるアイドルがいることはざらだった。元ヤンで未成年飲酒・喫煙・暴走行為などをしていたアイドルもいた。

 しかし、今では少し有名になるとすぐに「あいつはいじめをしていた」「性格が悪い」「犯罪していた」という情報がネットに流出する。

 だから株式上場していて社会の公器たる振る舞いを求められる大手事務所に所属するアイドルほど、品行方正で誠実・勤勉、末端スタッフに対してもウラオモテなく振る舞うアイドルでないと基本的には成立しなくなっている。

 今の世の中、どんなやりとりもネット上に晒されて半永久的に残るリスクがある。悪事は誰かに晒されてしっぺ返しが来る。結局、誠実に、性格よく振る舞う方がいい。告発ツールがあるのだから、おかしいことには声をあげて変えていくべきだ。――意識するとしないとにかかわらず、私たちの多くはこういう規範を内面化して生きている。

 2020年春アニメの中でトップクラスの人気を誇った『かぐや様』、そしてTVアニメ作品『はめふら』こと『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』はともにそうした空気に合致した作品だった。

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