1人殺しても地獄に堕ちないが、2人殺すと地獄行きーー斜線堂有紀『楽園とは探偵の不在なり』の独創性
ところで本書と同時期に出版された、書き下ろしミステリー小説アンソロジー『ステイホームの密室殺人1』に、作者は「Stay sweet , sweet home」という作品を寄せている。
コロナ禍によるステイホームで、恋人未満の相手とWeb会議サービスを使って話をしていた主人公が、相手の家で起きた事件の真相を看破するという話だ。すこぶる現代的な安楽椅子探偵ものといえるだろう。事件の真相にもコロナ禍の状況が巧みに織り込まれており、ミステリーとしての満足度は高い。
その他、ストーリーの妙が楽しめる織守きょうやの「夜明けが遠すぎる」、有名な密室トリックをアレンジした北山猛邦の「すべての別れを終えた人」、津田彷徨が本業の医学の知識を生かした「ゴミ箱診療科のミステリーカルテル 不要不急の殺人」、人生の選択を苦く描いた渡辺浩弐の「世界最大の密室」と、どれも読みごたえあり。『楽園とは探偵の不在なり』と併せて、お勧めしておきたい。
■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。
■書籍情報
『楽園とは探偵の不在なり』
著者:斜線堂有紀
出版社:早川書房
価格:本体価格1700円+税
https://www.hayakawabooks.com/n/ne8728e1873d2