『君は月夜に光り輝く』著者・佐野徹夜が語る、純文学と娯楽大作のあわい 「今の自分に戸惑っている」

『君は月夜に光り輝く』著者・佐野徹夜が語る、純文学と娯楽大作のあわい 「今の自分に戸惑っている」
『さよなら世界の終わり』

 映画化もされた小説『君は月夜に光り輝く』の著者・佐野徹夜の最新刊『さよなら世界の終わり』が新潮文庫nexから発売された。死にかけると未来が見える主人公が、死にかけると幽霊が見える少女、死にかけると他人が洗脳できる少年とともに、くそったれな現実をなんとか生きていく様を描いた、ずっしり来る小説だ。

 本作は最新刊ながら、これまで発表された作品のなかでもっとも古い、デビュー以前の投稿作品(はじめて書き上げた作品)を改稿したものだという。『君月』の印象から「泣ける恋愛小説」の書き手とみなされやすい佐野徹夜に、その原点たる本作に込めたものを訊いた。(飯田一史)

「これでライトノベルの賞が獲れる」と信じていた

Zoomでインタビューに応える佐野徹夜

――8年前に書いたバージョンと今回世に出たものでは大きく違うのでしょうか?

佐野:最初書いたときは、自分が好きなちょっと変わったライトノベルの文脈――講談社の『ファウスト』に参加していた西尾維新さん、佐藤友哉さん、舞城王太郎さん、滝本竜彦さん、乙一さん、上遠野浩平さん――を意識して書いていました。ただ、その後、実際に僕がデビューしたのは一般文芸とライトノベルのあいだとも言われる「ライト文芸」という文脈です。新潮文庫nexさんのカラーも踏まえつつ、そこにニュアンスを少し寄せていったところはあります。

――ライト文芸というカテゴリーの作品だと意識して書いている?

佐野:実はデビューするまでは全然知りませんでした。全く不勉強で、僕がデビューしたメディアワークス文庫のことも、なんとなく「『ビブリア古書堂の事件手帖』が出版されているレーベル」としてしか知らなくて。ライト文芸の読者には女性が多いことや、各レーベルの特徴などは、後から知りました。デビュー前の僕は「この作品でライトノベルの賞が獲れる」と信じてあちこちに送ったのですが落ちまくり、電撃文庫だけがいいところまで選考が進み、フィードバックを受けられた。その後、別の作品で電撃大賞を受賞しデビューします。作風を一般文芸に近づけていったのはデビュー後2作目からで、徐々に意識して書くようになっていきました。

 レーベルが変わり、これまで書いてきたものと差別化しようと意識したわけではありませんが、今回の改稿ではストーリーがより過激になったかもしれません。死にかけると他人を洗脳できる力を持つ天ヶ瀬は、初期の原稿よりもどんどん人を殺していくようになりました。

――死にかけたら特別な力が使える登場人物たち。ギリギリまで追い込まれたらふんばれる、あるいは、死んだと思えばなんでもできる的なことの象徴かなと思ったのですが。

佐野:最初書いていたときの考えとしては「主人公が首吊ってるシーンから始めよう」と。『新世紀エヴァンゲリオン』の旧劇場版は、シンジくんがある行為をしているところから始まります。ああいう衝撃的でアンモラルなことから始めたかった。それを書いたあとで「こいつは何か理由があって首を吊っていることにしよう」と。ライトノベルだと超能力が使えるキャラクターは当たり前でしたから、そこで能力の設定を考えました。  

――佐野作品では発光病、人のポイントが見える、死にかけると特殊能力が発動する……と、ひとつだけ現実離れしたギミックが入っていることが多いです。

佐野:僕はエンタメが楽しみポイントでないエンタメが好きというか……たとえば『エヴァ』はフックの部分ではロボットアクション萌えアニメの要素がありますが、それだけを楽しむものかというと違う気がして。僕は、純文学やアート作品ではないし、かといって純然たるエンタメでもないものが書きたいんです。そういう作品を書こうとしたとき、僕としては、少しだけ非現実的要素を入れるというバランスが書きやすかったんだと思います。

売れるものを求められることから逃れられないが、もとはそういう人間ではなかった

――佐野作品では、生きていくのはしんどくて、邪魔してくるものが無数にあるけど、やりたいようにやる、生きたいように生きる、ということに至るまでの話が描かれています。一方、YouTuberをはじめとする現代のインフルエンサーが書いた本を読むとだいたい「批判なんか気にしない。私は私」的なことが書いてあります。毎日動画の再生回数や登録チャンネル数を気にして生きているはずの人たちが「他人に人生を委ねるな。生きたいように生きろ」と言っている。佐野さんはご自身の作品に流れている価値観と、いま活躍しているインフルエンサーの生き方に相通じるものがあると感じますか?

佐野:YouTuberの方がアクセス数を気にされているのかもしれないことに関連して言えば、作家も「売れる」ということ、数字の問題を、まったく意識せずにはいられない。同世代の作家同士で話しても数字を気にしていない人は少ないですね。最低でも採算分岐点は超えないといけないという義務感はあります。昔、ユーリ・ノルシュテインというアートアニメの作家が「ソ連時代は思想的検閲があったが、今は市場の検閲の方が厳しい、と言う作家もいる」とインタビューで答えていたのを覚えているのですが、いまクリエイターとして生きるにはそういった意味の検閲をクリアしないといけない、と感じています。

――でも『アオハル・ポイント』の主題は「ポイント(数字)なんか気にしないで生きる」ということでしたよね? 商業的な制約はまったく気にしないでやっていい、と言われたら何か変わりますか?

佐野:実際に、なんの縛りもないところで書けと言われると、それはそれで悩むことが多くなりそうですね。ただ、それだけがクローズアップされる現状はダルい、とは思います。

累計50万部を突破した『君は月夜に光り輝く』

――デビュー作『君は月夜に光り輝く』が50万部も売れて映画化もされたとなると、おそらく他の多くの作家よりは数字のハードルは上がりますよね?

佐野:売れたことに対して「プレッシャーですよね」とよく言われるのですが、それは全く感じていません。運が良くて、実力以上に売れさせてもらった、という気持ちです。ただ、売れているときはどうしても方向性を変えたくないという力学が働くのか、出版社からは同じテイストの作品を求められる。売れることを最初に求められる作家になってしまう。でも、もともと僕自身は売れることに憧れがあったわけではなくて、もっとマイナーなもの、アングラなものが好きだったし、「今の自分に戸惑っている」というのが正直なところです。

――今回の『さよなら世界の終わり』についてTwitterで「『君月』が嫌いな人に読んでほしい」的なことを書かれていましたよね。

佐野:読者としての僕は「泣ける恋愛小説」にあまり興味はありませんでした。僕はメジャーな作品に触れても自分の居場所を見つけられない人間だったから、そういう人たちに読まれる小説家になりたかった。でも予期せぬ売れ方をしてしまった。だから本当は『君月』と違う読者層、変なものが好きな若い人にも届いてほしいという気持ちを込めてこの本を出しました。

 ビジネスのことだけ考えると、僕はこのタイミングで文庫書き下ろしではなく単行本を出す作家になっていくのがステップアップの道筋としては正解でした。でも『さよなら世界の終わり』は単行本では出せないかもしれないタイプの作品です。僕はこの作品を、ライトノベルに近い文脈で、今、どうしても出しておきたかった。数字の問題とやりたいことの間で少し悩みましたが、ビジネスとして正解かどうかより、作家として何が大切かを優先したかった。

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