『七つの魔剣が支配する』から「十二国記」シリーズまで タニグチリウイチが2019年のラノベ注目作を振り返る

『七つの魔剣が支配する』から「十二国記」シリーズまで タニグチリウイチが2019年のラノベ注目作を振り返る

 スニーカー文庫や電撃文庫、GA文庫といったレーベルに加えて、メディアワークス文庫、集英社オレンジ文庫といったキャラクター小説系のレーベル、そして小説家になろう、カクヨムといった小説投稿サイトで人気の作品を多く出しているノベルズのレーベルを含めると、ライトノベルと呼べそうな作品の数は、いったい何千冊に及ぶのだろう。

 それらを全部読み切ることも、内容を調べて傾向を掴むことも不可能だという前提で、視野に入る範囲や、好みのジャンルから2019年のライトノベルの状況を振り返ってみた時、もっとも気になった作家として挙げたいのが斜線堂有紀だ。

 第23回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞を受賞した『キネマ探偵カレイドミステリー』(メディアワークス文庫)で2017年にデビュー。シリーズ化された一方で、体が硬化して金塊に変わる難病に罹った女性と、中学生との交流を描いた『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』(メディアワークス文庫)を刊行し、難病物に金銭的な対価という要素を混ぜ込んで、看取る側の心理を揺さぶった。

 以後、星海社FICTIONから、女子大生たちの百合めいた交流が登場する『コールミー・バイ・ノーネーム』を出し、新紀元社が立ち上げたポルタ文庫から、殺害された死体を埋めに行く仕事を始めた大学生が、先輩から死因を問われて答えるミステリ『死体埋め部の青春と悔恨』を刊行。すべての話が1ページで終わる作品を集めた『不純文学 1ページで綴られる先輩と私の不思議な物語』(宝島社)も出してといった具合に活躍の場を広げた。米澤穂信や桜庭一樹らライトノベル出身で一般文芸へと読者層を広げた作家の後に続きそうな才能。2020年の活動に注目が集まる。

 ミステリなら幾つも年間ランキング本が刊行されているが、ライトノベルとなると宝島社の『このライトノベルがすごい! 2020』がほぼ唯一。ファンからの投票と書評サイトの運営者らによる投票で決めるランキングで1位となったのが、宇野朴人の『七つの魔剣が支配する』(電撃文庫)だった。魔法を学ぶ学園が舞台のファンタジーで、登場人物に課せられた過酷な運命と迫真の剣戟描写が評判に。ファンからの投票で10代や20代の圧倒的支持を集め、全体では4位に入った衣笠彰梧『ようこそ実力至上主義の教室へ』ともども、2020年代を引っ張っていく作品と言えそうだ。

 『このライトノベルがすごい!2020』では、単行本・ノベルズ部門のランキングも集計していて、電撃レーベルから立ち上がった電撃の新文芸として刊行された小宮九時『Unnamed Memory』が1位となった。子供を作れない呪いをかけられた王太子と、最強の魔女とが織りなす物語。テレビアニメ化された香月美夜『本好きの下克上~司書になるためには手段を選んでいられません~』(TOブックス)の3連覇を阻んだ。

 ノベルズで言及するなら、講談社が2018年10月に創刊し、ネットで話題の作品を集め刊行するレジェンドノベルズも刊行を継続。異世界転移・転生物とともに迷宮の階層主に過ぎなかったミノタウロスが、強大な力を得て勇者たちを屠っていく支援BIS『迷宮の王』や、VRMMOのゲーム世界が舞台となった七切聖虎『Abyss 1 賞金2700億円のVRMMO』などを出して、読み手の選択肢を広げている。

 異世界転移・転生がライトノベルでとてつもなく大きなマーケットになってしまったのは周知のとおり。その人気をバックにベストセラー作品のアニメ化も多く行われて、そちらの方でも一大勢力を示しつつある。

 2019年2月に最新刊の『幼女戦記11 Alea iacta est』(エンターブレイン)が出たカルロ・ゼンのシリーズは、『劇場版 幼女戦記』が公開され、長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』(MF文庫J)、暁なつめ『この素晴らしい世界に祝福を!』(スニーカー文庫)も劇場版が公開。『落第騎士の英雄譚』(GA文庫)の海空りくによる『超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!』(GA文庫)、カクヨムから出てきた土日月の『この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる』(カドカワBOOKS)もテレビアニメとなった。

 小説投稿サイトの「小説家になろう」からも白米良『ありふれた職業で世界征服』(オーバーラップ文庫)、香月美夜『本好きの下克上 司書になるためには手段を選んでいられません』とアニメ化作品が相次いだ。伏瀬『転生したらスライムだった件』(マイクロマガジン)もアニメの第2期が決まるなど、このジャンルの人気はまだまだ続きそう。書き手も読み手もこれらに続く作品を探索し、アニメ関係者も次のヒット作を探し歩く状況はしばらく終わりそうにない。

 こうした異世界転生・転移物としてくくられる作品は、実は子供を失った母親が子供はまだ生きていて、異世界を冒険しているのだという一種の妄想を、小説の形にして綴ったものだった。そんな設定で送り出されたのが、伊藤ヒロの『異世界誕生2006』(講談社ラノベ文庫)。トラックに跳ねられ死んだ息子の残したプロットを、母親がパソコンに向かい書いていたのを見た娘が、兄を跳ねたトラックの運転手に頼みネットにアップさせたところ話題に。異世界転生物の流行を逆手に、子を失った母親の心のリハビリを描いたシリアスな内容で引きつけた。

 異世界ファンタジーでは、強靱な肉体とともに持ちこんだ空手の技で、異世界の猛者たちを蹂躙する転生者が登場する輝井永澄『空手バカ異世界』(ファンタジア文庫)、転生者が妖精(エルフ)ではなく、いすゞのトラック「エルフ」を呼び出し、敵を踏みにじる八薙玉造『異世界最強トラック召喚、いすゞ・エルフ』(ダッシュエックス文庫)といった、良い意味で呆れかえるバカ設定の作品も登場した。

 中でも極限までバカバカしさを突き詰めた作品が、つちせ八十八の『スコップ無双 『スコップ波動砲!」( `・ω・´)♂〓〓〓〓★(゜Д ゜ ;;;).:∴ドゴォォ』(MF文庫J)だ。千年もの間、スコップで宝石を掘り続けた鉱夫のアランがスコップから波動砲を出せるようになり、その力を使って世界を救うという設定。魔王と倒し天界にも地獄にも乗り込み暴れるアランの活躍ぶりが、どこまでエスカレートしていくかが楽しみなシリーズだ。

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