大阪の新名所「あべのハルカス」の怪談とは? 文芸評論家が選ぶ、夏のホラー小説3選

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 ラストは輪渡颯介の江戸ホラー小説『祟り神 怪談飯屋古狸』である。檜物職人修行中の虎太を主人公にした、シリーズ第二弾だ。

 怪談を聞かせるか、怖い話の舞台になった場所を訪れると、飯代が唯になる飯屋「古狸」。そこの看板娘のお悌に惚れている虎太は、なんだかんだで怪異の現場に行っては、怖ろしい体験をする。というのがシリーズの基本フォーマットだ。なぜ「古狸」がこんなことをしているのか、きちんとした事情があるのだが、本書の内容と直接的な関係はないので省く。ただ、かなり面白い設定だとはいっておこう。

 神田の建具屋に現れ、婚礼間近の娘の首を絞める女の幽霊。かつて凶賊に店の人が皆殺しにされ、空き家になった家で消えた男。御神木を切ってから、なぜか死体がよく見つかる雑木林……。連作スタイルで進む各話は、一応、落着する。だが、どこか尻切れトンボだ。これは何かあるなと思っていたら、終盤ですべての怪異が結びつく。そこで浮かび上がる構図は複雑怪奇で、だからこそ恐怖を感じる。主人公の明るいキャラクターで緩和されているが、恐怖のレベルは高いのだ。

 以上三冊、どれも怖さは折り紙付き。立て続けに読んで、肝を冷やし過ぎないようにしてもらいたい。

■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

■書籍情報
『関西怪談』(竹書房怪談文庫)
著者:田辺青蛙
出版社:竹書房
価格:本体650円+税
http://www.takeshobo.co.jp/book_d/shohin/6233601

『家が呼ぶ 物件ホラー傑作選』(ちくま文庫)
編集:朝宮運河
出版社:筑摩書房
価格:本体900円+税
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480436696/

『祟り神 怪談飯屋古狸』
著者:輪渡颯介
出版社:講談社
価格:本体1,500円
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000333376

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