ママ友たちの間に友情はあったのか? 『消えたママ友』が与えるリアルな“気づき”
これまでも『離婚してもいいですか?』や『娘が学校に行きません』など、数々の問題作を発表し、他人には明かせないが、多くの母親が持つ孤独や不満を包み隠さず描くことで共感を得てきた野原広子。
今年1月にウェブメディア「よみタイ」で連載がスタートした『妻が口をきいてくれません』も大きな話題を呼び、夫への不満が頂点に達し、数年に渡って夫を無視する妻に対してSNS上では議論が巻き起こった。
そんな彼女が描く『消えたママ友』には、4人のママが登場する。主人公はパート勤務で、保育園に通う息子・コー君のママである春ちゃん。彼女には保育園に仲良しのママ友が3人いて、勝気な性格のリオちゃんを育てるヨリちゃん、すうちゃんママで現実的な友ちゃん、ツバサ君を育てながらバリバリ働くおしゃれな有紀ちゃんと一緒に日々過ごしている。
ママ友は互いを「子供の名前+パパママ」で呼ぶのが一般的だが、彼女たちは互いを「ちゃん付け」で呼ぶほど大の仲良し。いわゆる“ママ友カースト”や“ママ友いじめ”には無縁で、何も問題ないように思えた矢先、有紀ちゃんが失踪。春ちゃんたちに何も告げず、ツバサ君を置いて行方不明になってしまう。保育園では「男と逃げた」とたちまち噂に。先日3歳の娘を放置死させたとして女性が逮捕されたニュースが報道されたが、同じようにSNSでは真実が明らかになる前から「どうせ男ができたんだろう」と推測する声が溢れていた。その人自身の背景はおざなりにされ、第三者が子どもを放置するダメな母親としてレッテルを貼る。野原広子が描く作品には、いたるところにリアルが溢れているのだ。
ただ1人、主人公の春ちゃんだけは違った。いつも優しくツバサ君を愛していた有紀ちゃんがそんなことをするはずがないと信じ、以前有紀ちゃんが酔った時に呟いた「死にたい」という言葉だけを頼りに、あれこれと理由を想像。しかし、考えれば考えるほど、あれだけ仲が良かったはずなのに、有紀ちゃんのことを何も知らないことに気づく。
さらに、彼女の失踪をきっかけに、残された3人の関係性にも変化が。今まで有紀ちゃんがバランサーとしての役割を果たしてくれていたことで、自分たちは“仲良しママ友”でいられたことを春ちゃんは実感する。
自分たちは本当に仲が良かったのか、子どもたちの“母親”としてではなく、“友達”として相手のことを理解しようとしていたのか。春ちゃんたち4人が互いに隠している現実や、友情の行く末が気になる本作。ミステリー小説のようだが、誰もが経験しうるコミックエッセイとなっている。読むあなた自身が、有紀ちゃんをダメな母親だと責める人にも、春ちゃんの立場にも、そして第2の有紀ちゃんにもなり得るのだ。
■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter:@bonoborico
■書誌情報
『消えたママ友』
著者:野原広子
出版社:KADOKAWA
定価:本体1,100円+税
https://www.kadokawa.co.jp/product/321909000770/