LINEノベルはなぜ成功しなかったのか? 新たな小説投稿サイトが勝ちにくい理由
2019年夏に鳴り物入りで始まった小説投稿・閲覧サービス「LINEノベル」が2020年8月31日をもってクローズすることが、7月8日に発表された。
「LINEノベル」参入以前から、日本の小説投稿サイトは「小説家になろう」「エブリスタ」「アルファポリス」「カクヨム」が大手として存在し、ほかにも無数のサイト・アプリが生まれては消えていっている。
しかし成功するのは難しい。ここではLINEノベル固有の問題も含めて、そのポイントを整理してみよう。
マッチングサービスは「皆が使ってるから使う」ネットワーク効果がエグい
既存の投稿サイト、なかでも最大手である「なろう」に対するユーザーの不満は山積している。典型的なものは「いくら人気になってもサイト自体では稼げない(書籍化されないと作家にお金が入らない」「人気ジャンルが偏りすぎている」などだ。
それゆえ、なろうの欠点を補うような「機能」を考案して参入する者が後を絶たないが、「機能」だけでは書き手も読み手も移ってはこない。
小説投稿サイトの本質は、出会い系や婚活サービスと同じでマッチングサービスである。小説を提供する側(書く側)と、される側(読む側)が幸福な出会いを果たして、お互い満足が得られればよい。
ここで問題になるのは、マッチングサービスを使ってみたが送り手または受け手が閑散としている、というケースである。小説投稿サイトがマッチングアプリと違うのは、ひとつの作品に無数の読者が殺到してもかまわない、という点だ。
しかし読者がろくにいないのに力を入れて書きたいと思う作家はいないし、おもしろそうな作品・作家がいないのに読もうという読者もいない。有力作品と読者の関係はニワトリとタマゴの関係と同じだ。
逆に言えば、すでに作品も読者も無数にいるサービスは、いくらそこに機能的な欠陥があっても「使う人がいるから使う」「人気があるから人気」という状態になり、離脱しづらくなる。ネットワーク効果と呼ばれるものだ。日本ではスマホ向けメッセンジャーサービスとしてLINEが覇権を握っているが、いちど人々にとってデフォルトとしての地位を確立してしまうと、いくら他社がより利便性が高いサービスを考案してもなかなかその牙城が崩せない。これと同じだ。使っている人が少ないサービスを使いたいと思わせるには、相当なメリット、リワードをユーザーに示さなければ難しい。
つまり、どうやってこのニワトリタマゴ問題を解消し、正のネットワーク効果のスパイラルを回してユーザーを増やしていけるかが、サービスとして成長するためにもっとも重要なこととなる。「機能」だけでは、なろうには勝てない。
LINEノベルは、ローンチ当初iPhoneアプリ版しかなく、Android版や、ウェブ小説書きが一番使いたいPCブラウザ版が遅れたことが書き手の流入を阻害した、といったことも投稿サイトとしてのミスのひとつではある。しかしこういうことは改善していけば済むレベルの話だ。マッチングサービスは第一に「機能」で選ばれるわけではない。
つまりLINEノベルが苦戦した理由のもっとも大きなものは「機能」の差ではない。
LINEノベルが用意したのはネット向きのコンテンツだったか?
重要なのは、どうやって読者と書き手を集めるのか? これに尽きる。
LINEノベルは、
1.新潮社やKADOKAWAなど複数出版社からライトノベルや一般文芸、ライト文芸作品を調達して配信する
2.編集部をつくり、版元から編集者を引き抜いてプロの作家を連れてきてもらい、新作をLINEノベルで書いてもらう
3.映像化確約の新人賞を創設して作家志望を集める
ということを行った。悪くない打ち手に思える。うまくいっているマンガアプリでは1か2、またはその両方を必ずやっている。ところが「紙の小説とウェブ小説の違い」、それからそもそもの「マンガと小説の違い」によって、この戦略はあまり芳しい成果をあげなかったと考えられる。
どういうことか? LINEノベルは、1は紙で出た本を分割していわゆる話売り形式にして配信していた。2は、書き下ろしてもらった作品はLINE文庫、LINE文庫エッジというレーベルから紙の本としても刊行し、かつ、話売りで分割販売していた。ようするにどちらも「紙の本の小説」を完成形(ベース)とし、アプリ上での分割配信はオマケみたいなものだ。これがスマホでの消費になじまなかった。
ほとんどのマンガは単行本で刊行され、単行本で読まれるものの、基本的には1話ごと雑誌やウェブ、アプリ上で「連載」したものをまとめている。作家は1話ずつ書き、普通は毎話「引き」で終わらせ、読者が次を読みたくなようにしている。これがマンガアプリで1話ずつ読ませ「続きが読みたければ一定時間待つか課金するか動画広告を観てね」にしたときにとてもうまく馴染んだ理由だ。
一方、紙の本を完成形とするタイプの小説はどうか? 今でも小説雑誌はあるが、書き手は一話ごとの「引き」をマンガと比べればそこまで意識していないだろうし、連載したものをそのまま単行本にする作家はおそらく少数派だ。本としてまとめて読むことを前提に、大幅に手入れをする。どころか今では小説は「雑誌連載から単行本に」というものより書き下ろし作品のほうがはるかに多い(LINE文庫、LINE文庫エッジ作品はこれだ)。
こういうものをただ分割配信しても、読者は「続きが読みたいから課金」という気持ちにはなりにくい。マンガとは異なり、1話ごとに続きを読みたくてウズウズするようなクリフハンガー式の物語形態になっていないからだ。
ウェブ小説は違う。なろう出身作家の津田彷徨がいくつかの記事で書いているように(参考:「現代ビジネス」なぜ「異世界転生」は若者にウケ続けるのか?)、なろうでランカー(ランキング上位者)に入るためには、文字数、投稿時間、投稿回数、1話あたりの内容、トレンドの採り入れ方などで、きめこまやかなテクニックを駆使したほうが望ましい。「1話ごと」に「いかに読んでもらうか」を考え抜いた作品か、天然か偶然でそれに適応した作家か、そんなもの一切関係なしに図抜けてキャッチーでおもしろい奇跡の作品のいずれかだけが勝つ世界になっている。
スマホで読むのに最適化されたウェブ小説の世界が「なろう」などにはすでにあるのに、LINEノベルは紙ベースの体質のままウェブ小説界に参戦してしまった。これが「小説を読んでもらうサービス」として伸び悩んだ理由の本質だろう。