「とある」シリーズと無縁の人生を過ごすのはもったいない! 広大無辺な世界の入り口は、キャラの魅力にあり

「とある」シリーズの面白さはキャラにあり

 6月のライトノベル売り場に積み上げられた、やたらと分厚い文庫が鎌池和馬による『とある魔術の禁書目録(インデックス) 外典書庫①』(電撃文庫)だ。980ページもある文庫なんて前代未聞かというと、電撃文庫には29冊の本編に1000ページ超えを何冊も含む川上稔『境界線上のホライゾン』シリーズがあるから驚きはない。それでも、過去に文庫で48冊を出し、『とある科学の超電磁砲(レールガン)』などスピンオフのコミックシリーズも多い「とある」シリーズだけに、ご新規が新刊の分厚さを珍しく思って手に取ろうとはなかなか思わない。

 だからといって、「とある」シリーズとは無縁の人生を過ごすのはもったいない。ちょっとした興味から広大無辺なシリーズに入って物語を味わい、キャラクターを堪能してこれからの展開を待ちわびるようになる入り口として、『外典書庫①』を手に取るのも悪くない。

 「神裂火織編」「『必要悪の教会』特別編入試験編」「ロード・トゥ・エンデュミオン」という、パッケージや映画の特典として書かれた3編が収録された本書。最初の「神裂火織編」は表紙で左から2番目を歩く神裂火織が主人公。長くて黒い髪をポニーテールに束ね、上半身に着たTシャツをめくって脇で絞ってへそを出し、片方だけ太ももの根元からばっさり切られたジーンズをはいた美女だ。

 妙にエロいファッションだが、当人にそれで人目を引こうという意識はない。神裂はイギリス清教の組織「必要悪の教会(ネセサリウス)」に所属する宗教人で、そして「聖人」。神の子に身体的な特徴が似ているという理由から、とてつもない能力を発揮できるのが「聖人」で、神裂も2メートル近い長刀を振るい音速で動いて敵を圧倒。宇宙空間でも生身で動いて飛んでくるミサイルを退ける。いったい何者という興味がわいてきただろうか。

 本書でも神裂は、「必要悪の教会」の指令を受け、失踪した拘束職人を捜索する、ミクロネシアで魔術結社が作ろうとしている大規模破壊霊装を破壊する、スコットランドにあるレンガ埠頭を占拠した敵対勢力の魔術生命体を排除する、といった活躍を見せる。いずれも魔術が絡んだ事件で、この魔術というのが「とある」シリーズでは重要な位置を占めるのだが、今は気にせず読み進もう。事件があって探索があって、アクションを経て意外な真相が明らかになる展開を、エロくて強い"ねーちん"の活躍を通して楽しめば良い。

 誰でも良いからキャラに興味を持つ。この場合は神裂に興味を持ってもっと知りたいと思うことが重要。それが、「とある」シリーズへと入っていくひとつの手段だ。

 「必要悪の教会」の協力者で、神裂とともに任務に挑むジーンズ専門の古着屋の店主が、高いビンテージでも片脚を切り落とす神裂にはジーンズを売ってやらないと憤るのも、キャラへの興味をふくらませる。ジーンズには冒涜的でも、本人はいたって真剣にジーンズを切り刻む理由は、彼女が前に女教皇(プリエステス)の座についていた天草式十字凄教が、身の回りの品々や服装をいじって魔術の術式をくみ上げていたからだ。

 その天草式十字凄教が、『とある魔術の禁書目録』のシリーズで描かれる事件を経て日本を飛び出し、イギリスに渡って「必要悪の教会」に加わろうとした時のエピソードが、続く「『必要悪の教会』特別編入試験編」で綴られる。

 これに登場する五和、表紙では1番左を歩く小柄だが胸が大きい魔術師の少女も、シリーズへの関心を誘うキャラのひとりだ。上条当麻というシリーズを通しての主役に、好意の証として会えばおしぼりを差し出すという、積極的だか奥手だか分からない行動をする。

 上条当麻には神裂も助けられていて、そのお礼として堕天使エロメイドのコスチュームを着て入院中の上条当麻の病室に現れる。本編やテレビアニメ版『とある魔術の禁書目録Ⅲ』に描かれるそのシーンの破壊力たるや!病室に先に入っていた五和も、元指導者による破壊力抜群の姿に戦慄し、負けていられないと発奮する。

 どれだけエロいんだと興味を抱きつつ、神裂や五和が上条当麻とどう関わるのだろうかと本編を読み始め、そして知るのだ。科学と魔術が交差して始まる、長大で深淵な「とある」シリーズの世界の面白さを。

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