交霊会で起こった奇妙な事件、貴族はどう解決する? 『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿』が描き出す、イギリスのオカルト事情

オカルト好きの有閑貴族が事件解決
坂田靖子『バジル氏の優雅な生活』(白泉社文庫)

 さて本書には、こうした読みどころの他に、もうひとつ留意すべき点がある。タイトルから分かるが、坂田靖子の漫画『バジル氏の優雅な生活』を意識しているのだ。ちなみに『バジル氏~』は、ヴィクトリア朝の有閑貴族バジル氏を主人公にした、愉快で粋な作品だ。エリオットを始め、本書の何人かの登場人物は、『バジル氏~』の登場人物にインスパイアされている。私は漫画のファンであるので大喜びだ。

 なかでも嬉しかったのが、「病める人々と癒しの手」に登場する、エリオットの友人のアレクサンドラ。世界各地で冒険をしている快活な女性だ。彼女のモデルは、『バジル氏~』の「ウイッシュ・ボーン」や「エジプシャン・スタイル」に登場したビクトリアだろう。お気に入りのキャラなのだが、意外と出番が少ないことをいまだに残念に思っている。だからビクトリアを彷彿とさせる、アレクサンドラの元気いっぱいな姿に喜んでしまったのだ。もし本書がシリーズ化されるなら番外篇でいいので、アレクサンドラを主人公にした秘境冒険小説を書いてほしいものである。

■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

■書籍情報
『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿』(集英社オレンジ文庫)
著者:栗原ちひろ
出版社:集英社
http://orangebunko.shueisha.co.jp/book/4086803178

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