迷子猫を探すために必要な視点とは? “ペット探偵”が打ち明ける7つの捜索劇
大切なペットがもし、行方不明になってしまったらどうしたらいいだろう。動物を飼っている方なら、誰でも一度はこんな不安を抱いたことがあるだろう。窓を開けて掃除をしている時や宅配便が来た時など、ペットが脱走してしまう危険は日常の中にたくさん転がっている。だから、『210日ぶりに帰ってきた奇跡のネコ ペット探偵の奮闘記』(藤原博史/新潮社)で、大切な家族を見つけようと奮闘してくれる“ペット探偵”という存在がいることを知り、とても心強く思い、同時にユニークな肩書きに興味も沸いた。
著者の藤原氏は1997年に迷子になったペットを探すペットレスキューを立ち上げ、これまでに犬や猫だけでなく、フェレットやウサギ、昆虫などありとあらゆる“小さな家族”を捜索してきた。その活動は今やテレビでも取り上げられ、多くの人々の注目を集めている。
たしかに肩書きはユニークだが、一体なぜ、これほどまでに藤原さんのペットレスキューは話題になったのか。そこには、動物に対する藤原さんの真摯な姿勢が深く関係していた。
動物を「個」として見つめるペット探偵
ペットの探し方は動物の種類や性格、環境によって大きく異なると語る藤原氏は「犬」や「猫」という分類ではなく、個性や特徴にも目を向けた捜索活動を行っている。例えば、猫は犬のように見た目にあまり大差がないため、「猫」とひとくくりにされやすいが、藤原氏は猫種としての特性も頭に叩き込んだうえで、その子の性格や暮らしていた環境なども考慮し、脱走後の行動を推理する。「種」ではなく「個」として動物を見つめるその姿勢からは、深い動物愛が伝わってきた。
特に印象的だったのが、とある夫婦からのSOSで20歳のシニア猫たいちゃんを捜索した時のエピソード。たいちゃんは夫婦が温泉旅行に行っている間に、忍び込んだ空き巣が割った窓ガラスの隙間から逃げ出してしまった。藤原氏は20歳という年齢を鑑みながら、たいちゃんの捜索を開始。室内で飼われている猫は身体の片側を建物につけ、壁面に沿って移動する癖があるため、藤原氏も同じように自宅建物に沿って歩き、たいちゃんの捜索に尽力した。
こんな風に、動物の視点に立った藤原氏の捜索法は斬新で、私たちの興味を引く。読み進めるたびに、「見つかってほしい」というハラハラと「そんな捜索法を取るのか」という驚きを感じ、読者は藤原氏という人物にどんどん引き付けられてしまう。
藤原氏の努力が実り、たいちゃんはその後、無事に発見され、飼い主さんとの再会を果たした1週間後に天寿を全うしたそう。長年共に過ごしてきた大切な家族が外ではなく、ちゃんと家で最期を迎えられたことは飼い主さんにとって、これ以上ない喜びだっただろう。行方不明になった動物になりきりながら行われる藤原氏のペット捜索は動物の命だけでなく、飼い主さんの心も救っているのだ。
なお、藤原氏がこうした捜索法をするようになった背景には、彼の生い立ちが深く関係している。作中では、反抗期に路上生活を送っていたという衝撃的なエピソードも掲載されているので、そうした過去の話からも、なぜ藤原氏が動物の立場になって脱走後の行動を予測できるようになったのか、ぜひ知ってみてほしい。