『SLAM DUNK』の絵にはすべて”理由”が描かれているーー桜木花道が圧倒的に読者の共感を呼んだワケ

『SLAM DUNK』の絵には”理由”がある

圧倒的な”下手なプレー”の描き方

 また、井上雄彦のすごいところは、下手を下手に描くのが非常にうまかったということだ。これも上手なプレー同様、うまくいかないプレーにも必ず理由がある。作者は自身のバスケ経験から、自分が下手だったころ、何が原因でうまくいかなかったかを理解していた。初心者の、素人のダメなプレーがなぜダメなのか、それを絵のなかに盛り込んで描くことは、ある意味綺麗なプレーを描くよりもうまかったかもしれない。

 その下手なフォームのリアルさに共感した読者は数え切れないほどいるだろう。ましてや綺麗なフォームの資料はそれこそいくらでも手に入るが、下手くそのフォームの資料は、今の時代ならともかくそうそう集められるものでもなかったはず。それならたとえば未経験者の編集者にバスケをやらせて……といっても、まるっきりできない人の下手さは出せるけど、ある程度形になってきたときの下手さというのは、やはり経験がないとおいそれとできるものではない。

 主人公の桜木花道になぜ読者が共感できるか、それは花道がバスケ経験者、さらにはほかのスポーツの経験者からみて、かつて自分たちが経験してきた、もしくは現在の自分の置かれた状況である”素人あるある””下手くそあるある”を納得のいく”理由”と説得力をもって己のプレーぶりで表現してくれたからに違いない。花道の見るにたえないひどいフォームはかつての自分たちであり、そんな花道が練習して上手くなっていき、フォームが綺麗になっていく姿を見るのは自分のことのように嬉しかった読者も多かったのではないだろうか?

 今回のイラスト集は、そんな井上雄彦が『SLAM DUNK』連載終了後もいろんな作品を、こと『バガボンド』においては人体の構造という部分によりフォーカスを当て、武蔵の剣捌きを描いてきた中で磨いてきた画力で、時間を置いて翔北のメンバーをはじめ、花道のライバルたちを描いた作品を見れることになる。1枚1枚のイラストの、指先や髪の毛1本に至るところまでに込められた数多くのそうである”理由”、井上雄彦からのメッセージを受け取りながら楽しみたいものである。そして2020年になったいまでも、花道や『SLAM DUNK』の登場人物たちが”生きている”悦びを、存分に享受してほしい。

■関口裕一(せきぐち ゆういち)
スポーツライター。スポーツ・ライフスタイル・ウェブマガジン『MELOS(メロス)』などを中心に、漫画、特撮、芸能、ゲーム、モノ関係の媒体で執筆。他に2.5次元舞台のビジュアル撮影のディレクションも担当。

■書籍情報
『PLUS/SLAM DUNK ILLUSTRATIONS 2』
井上雄彦 著
価格: 本体3,600円+税
判型:A4判変型/96ページ
出版社:集英社
公式サイト

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