『薬屋のひとりごと』ヒットに見る“中華風の世界観”の魅力 ラノベ週間ランキング考察

『薬屋のひとりごと』ヒットに見る“中華風の世界観”の魅力 ラノベ週間ランキング考察

 電撃文庫や角川スニーカー文庫、ファンタジア文庫、GA文庫にガガガ文庫と多々あるライトノベルのレーベルから出た人気シリーズの最新刊を、このところのランキングで押さえて上位に君臨し続けていた作品が、主婦の友インフォスのヒーロー文庫から日向夏が刊行した『薬屋のひとりごと9』だ。

 楽天ブックスがまとめた2月24日(月)~2020年3月1日(日)のライトノベル週間ランキングでは、悠木碧や櫻井孝宏、津田健次郎といった超人気声優が出演しているドラマCD付き限定特装版とともに1位と2位を占めた。なおかつ過去のシリーズ作品が、30位までの間にすべて入る盛況ぶり。なぜにそこまで?という問いに答えるなら、圧倒的に面白いからというのが最適な言葉だ。

 テレビでアニメが放送されている訳ではない。ヒーロー文庫では、犬塚惇平「異世界食道」シリーズや、天酒之瓢「ナイツ&マジック」シリーズがテレビアニメ化されている。現実世界にある定食屋が、土曜日だけ異世界とつながってそこに暮らす勇者や騎士、商人に覇王といったファンタジー世界の住人たちが、チキンカレーやメンチカツ、エビフライを食べて喜ぶ「異世界食堂」シリーズも、交通事故で死んだロボットオタクが、転生したファンタジー世界でロボットを作り上げる「ナイツ&マジック」シリーズも、アニメが良い出来で見た人が面白いと感じ、原作を手に取った。そうした“逆流”が「薬屋のひとりごと」シリーズではまだ起こっていない。

 「薬屋のひとりごと」シリーズへの熱い支持は、原作の小説であり、スクウェア・エニックスの『月刊ビッグガンガン』と小学館の『月刊サンデーGX』というふたつのマンガ誌で連載中のコミカライズ版に描かれる物語が良い出来だからだ。

 舞台は中華風の帝国で、皇帝がいて後宮があって官僚がいて軍人がいて市井の人々がいる状況の中、猫猫という名の少女が境遇や立場をものともせず、持っている薬師としての知識を活かし、後宮や王宮で起こるさまざまな事件を解決していくストーリー。そうした活躍で見せるミステリ的な謎解きの面白さがあり、活躍によって高貴な人々から関心や好意を抱かれ、引っ張り上げられて頼られる存在になっていく様に、冴えないわが身を重ねたくなる楽しさがある。

 花街にある最高級妓楼の緑青館に生まれ育った猫猫は、養父で医師の羅門に就き薬師の仕事をしていたが、薬草を採りにいった際に人さらいに捕まって、後宮の下級女官として売り飛ばされてしまう。そこで騒ぎ立てず暴れ回らず、2年経てば年季もあけるからと無能を装い下働きをしていた。活躍したところで自分を売り飛ばした人さらいへの送金が増えるだけ。そう割り切ってしまえるところに、猫猫という少女の明晰さや剛胆さが窺える。あるいは達観ぶりが。

 もっとも、薬師としての使命感も強くあったようで、後宮で起こった皇帝のふたりの寵妃たちと、それぞれが産んだ赤子たちの衰弱が、何によるものかを知識から見抜いてこっそりと警告。これを信じて娘を亡くさずに済み、自身も健康に戻った玉葉妃の話を聞いて、壬氏という美貌の宦官が、猫猫の才能を見抜いて抜擢する。

 ここからどんどんと活躍の場を広げていく猫猫の暴れっぷりを追いかけていくのが、「薬屋のひとりごと」の面白さの太い柱だ。

 玉葉妃だけでなく、皇后の地位を目指すライバルにあたる梨花妃が玉葉妃と同じような体調不良で寝込んでいるのを助け、宮廷内に支持者を増やして後宮から抜け出すことに成功した猫猫。それなのに、壬氏に見込まれ女官として引き戻されるが、そこでも大活躍は続く。

 細工職人が3人の息子に渡した品物や遺言から、彫金細工の秘伝がいったい何かを見つけ出す。宮中で貴人の身に降りかかった危機を寸前で防ぐ。後宮にいるやぶ医者の実家が作っている紙の質が落ちた理由を見抜いて助言する。薬学だけでなく医学や化学の知識も持っているのかと思うような活躍ぶりに拍手喝采したくなる。

 それだけだったら、後宮が舞台の日常ミステリの範囲に収まるところだが、「薬屋のひとりごと」シリーズでは、宮廷が舞台となっているだけあって、皇后の座をめぐって妃とその一族たちがしのぎを削り合う謀略があったり、皇帝の座を脅かそうとする謀反があったりと、スケールが大きくなって歴史小説的で宮廷ドラマ的な苛烈な戦いへと進んでいく。

 第4巻で描かれた子一族による謀反のエピソードは、それまでに張られていたいくつかの伏線がひとつにまとまり、猫猫が親しくしていた人物も関わって、どうしてそんな真似をといった慚愧の念を引き起こす。加えて、そうした騒乱の裏にも意図があったことが示されて、絶対の悪だと憎しみをぶつける気持ちを冷静にさせる。

 深い。とても奥深い設定が幾重にも巡らされているから、読んでいて絡め取られて引きずり込まれる。最新刊となった第9巻では、少し前から出ていた猫猫と同様に医官を目指す姚と燕燕というふたりの少女も加わって、羅門の書庫に隠された『華佗の書』を探し出すというミステリ的エピソードの後、西都西への旅程が描かれていく。そこでも繰り出される冴えた推理を楽しみつつ、いったい何が起こるのかといった続刊への期待を誘われる。

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