『掃除婦のための手引き書』の筆致に漂う、ルシア・ベルリンの才気 没後16年、幻の天才作家の著作を手に取って

ルシア・ベルリンが天才と言われる所以

 そんなルシアの筆致を、忠実に日本語に当てはめていった岸本佐知子の功績もまた忘れてはならない。彼女の誠実な翻訳により、我々はルシアの文章を、言葉だけでなくリズムとしても楽しめているのだ。

 残念ながら、彼女は生きているうちにその才能を知らしめる機会に恵まれなかった。しかし彼女に魅了された数々の作家、翻訳家、編集者がルシアの作品をより多くの人に届けようと活動し、その結果『掃除婦のための手引き書』は邦訳され我々の手元に届いた。ルシアの作品は他に、『楽しい夜』という岸本佐知子編の海外小説アンソロジーに「火事」という短編が掲載されている。こうしたドラマチックな支持のされ方は、ルシアの波乱に満ちた人生そのもののように思う。

 本作の表紙は彼女の顔写真だ。顔を知るということは重要なことである。いつでも彼女を思い出すことができるからだ。これから私たちは折に触れてルシアの存在を思い出すだろう。それはルシアの作品の世界と通ずるように、セーフウェイの駐車場で鳩に出会った時かもしれない。そしたらそっと、またこの本のページをめくろうと思う。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter:@nanaics

■書籍情報
『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』
著者:ルシア・ベルリン
翻訳:岸本佐知子
出版社:講談社
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000311486

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