新人作家・安壇美緒の2作目『金木犀とメテオラ』は青春小説の金字塔となるか?

新人作家・安壇美緒の2作目は青春小説

 渋谷センター街の入り口にある大盛堂書店で書店員を務める山本亮が、今注目の新人作家の作品をおすすめする連載。第3回である今回は、安壇美緒の『金木犀とメテオラ』を紹介。安壇は第30回小説すばる新人賞でデビューし、本作は2作目の小説となる。(編集部)

連載第1回:『熊本くんの本棚』『結婚の奴』
連載第2回:『犬のかたちをしているもの』『タイガー理髪店心中』『箱とキツネと、パイナップル』

 入荷した新刊書籍を並べながら、その著者の以前刊行された本が頭の中に思い浮かぶ。この作者は次も同じ系譜の作品で刊行してくるのかな、と予想をするのも楽しいし、趣向をガラリと変えたなとか、大幅にそれまでの作風から転換した意欲作だなというのもあって、書店員の品出しは本当に飽きない。特にデビュー2作目には注目している。作者の最初の“素顔”が見えると思っているからだ。

 安壇美緒は昨年刊行された『天龍院亜希子の日記』でデビューした作家だ。『天龍院亜希子の日記』は人材派遣会社に勤める二十代サラリーマンを主人公にした作品で、平凡だけどちょっとだらしない主人公と周囲の女性達の様子が巧みに表現されていて印象に残っていた。これからこの著者は色々な「大人」や「仕事」を描くことでステップアップしていくのだろうと勝手に思っていたが、デビュー2作目となる『金木犀とメテオラ』で予想を裏切られた。「学生」を描く直球の青春小説だったのだ。安壇美緒が一体どんな青春小説を書くのか驚きと期待で手にとり、最初の数ページを読んですぐに虜になった。

 東京から来た宮田佳乃と北海道に住む奥沢叶が、一期生として入学した北海道南斗市にある新設の女子中高一貫校・築山学園。小高い山の半分が学校の敷地で、周囲は林に覆われている。街と隔てられ、「中学受験に敗れた落ちこぼれと何も知らない田舎の子どもと、わざわざここを選んだ変人のどれか」が通う学校だ。

 入学式で新入生代表として答辞に立った奥沢を、宮田が意識するところから話は始まる。12歳の宮田と奥沢、そして17歳になった二人の視点で物語は組み立てられている。

 裕福な家庭に育つも、母と死別し父からは疎まれ、不本意ながら東京から築山学園に進学し寄宿舎に住む宮田。勤務先の建設会社社長と愛人関係にある奔放な母を持ち、社長から不躾な好意の眼を向けられる奥沢は、母と住む狭いアパートからいつか出ていきたいと願っている。

 宮田は母から受け継いだピアノの才能を、奥沢は同級生が羨む程の容姿と絵の才能を持っている。さらに二人は成績が良く、常に学年のトップを争っている。表立てて声には出さないが、二人は互いに意識し、ライバルと認識し合う。それぞれの心の中で相手への想いや苦手意識、嫉妬が渦巻き、同時に自分への嫌悪や遣り切れなさ、不安が波のように押し寄せてくる。そんな様子が描かれていく。

 才能があり、成績がいいせいで同級生達からは意図せず浮いてしまう二人だが、安壇は決して“選ばれし者”としては描かない。むしろ深夜に寄宿舎や家から抜け出し流星群を見に行って、大人たちにこっぴどく叱られるなど、学生たちの瑞々しい描写が素晴らしい。大人びて達観しているように見える宮田と奥沢も等身大の中高生なのだとわかる。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる