名物書店員がすすめる「“今”注目の新人作家」第3回
新人作家・安壇美緒の2作目『金木犀とメテオラ』は青春小説の金字塔となるか?
周囲の大人たちの視線や言葉によって傷ついた二人は、また大人たちによって救われてもいく。寮母の杉本は宮田にとって母のように親身になり、理科教師である時枝は奥沢の淡い恋心の相手として、二人の救いとなっている。
あの時、星が燃えるのを観たのは自分と宮田だけだった。
流れ星にひとつの奇跡が宿るというのなら、その奇跡は自分と宮田、どちらに味方するのだろう?
二人は今いる場所に本当にいていいのか、これからどこへ行くのか自問自答を繰り返し、出口が見えない人生を手探りでもがきながら進む。その姿がリアルで胸に迫ってくる。宮田はプロの道をいったん諦めたピアノに再度触れることで、奥沢は絵を描くことで、自分なりの出口を見つけ出そうとし、物語はクライマックスである合唱コンクールの場面へと進んでいく。
宮田と奥沢は12歳と17歳の二回“握手”をする。ずっと歯車のかみ合わなかった二人が、物語が終わる時どう変わっているのか、あるいはそのままの関係なのか。その二回の“握手”をぜひ読み比べてみてほしい。
そして物語ではそこまで描かれないが、登場人物たちにはやがて卒業が訪れる。余韻を惜しむかのように閉じた小説に、卒業の影が掛かってくることに気付いた。この先、二人はどうなっていくのだろうか。
冒頭にも触れたが自分の浅はかな予想を裏切る、直球の素晴らしい青春小説だった。今後十年、二十年、いやその後の世代まで残る青春小説の金字塔ではないだろうか。こういう作家の新しい一面との出会いがあるからこそ、デビュー作のプレッシャーから解放された二作目を読むことは欠かすことができない。
■山本亮
埼玉県出身。渋谷区大盛堂書店に勤務し、文芸書などを担当している。書店員歴は20年越え。1ヶ月に約20冊の書籍を読んでいる。会ってみたい人(物故者)は川島雄三、チャールズ・ブロンソン。
■書籍情報
『金木犀とメテオラ』
著者:安壇美緒
出版社:集英社
価格:本体1,700円
<発売中>
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-775452-0