「少年ジャンプ+」編集長が語る、画期的マンガアプリ誕生の背景 「オリジナルマンガで行くという戦略は間違っていなかった」

「少年ジャンプ+」編集長インタビュー

「少年ジャンプ+」が考える「スマホ時代のマンガ」

――『SPY×FAMILY』は最新話が更新された瞬間、競うようにコメントが付きます。

細野:更新される午前0時付近はサーバーの負荷を考慮して増強しています。遠藤先生は『少年ジャンプ+』のコメントには目を通していますし、SNS にアップされたファンアートも保存されているそうです。コメント欄は各話を閲覧後に表示される「いいジャン!」を押した人しか書き込めない仕様にし、コメントにも「いいね!」が付けられてその数が多いほどトップ表示されるようにしています。

――その仕様にした背景は?

細野:ポジティブなことを書いてもらったほうが作品にとっていいだろうという判断です。Twitterなどでも感想のやりとりはできますが、「少年ジャンプ+」のコメント欄が盛り上がることで、アプリ内で同じタイミングで同じものを楽しむことができている感覚があります。

――一話閲覧するごとに表示される「いいジャン!」の数も参考にしていますか?

細野:「いいジャン!」はファンの数かなと思っています。閲覧数に対して「いいジャン!」数がどれくらいなのかも見ています。それ以外にもいろいろなかたちで読者の反応がほしいと思っているので、一定の割合で各話ごとにアンケートを表示するしくみもあります。なぜか僕には一度も表示されたことがないんですけど……。

――スマホで読まれることを意識して作品づくりをしている作家さんは増えましたか?

細野:大前提として、紙で読みやすい作品はデジタルでもだいたい読みやすいです。コマ割りに関してはそれほど意識しない作家さんもいますが、アプリ上の文字の大きさを想定してセリフの量を考えている作家さんは多いですね。また、紙と違ってスマホだと細かい絵だと見にくくなることもあるので、そのあたりを考慮している方もいます。ただ、「スマホでマンガ」というとみなさん思い浮かべるであろう縦スクロールマンガは「少年ジャンプ+」だと人気が出にくい傾向があります。

――「少年ジャンプ+」は編集者のTwitterでの発信が目立ちますが、どんな方針ですか?

細野:特に編集部での方針はありません。今の時代、宣伝ツールとしては欠かせないと思いますし、Twitter経由で新しい作家さんと出会うこともあるので有用かなと。

――他のマンガアプリに比べて広告やポップアップが抑制的ですが、そのあたりの方針は?

細野:基本的には抑えていますが、「広告を観たらコインがもらえるほう が嬉しい」という方もいますから、ユーザーに応じてきめ細やかに対応していこうと考えているところです。コマを使った広告など新しいことも積極的にやっていこうと思っています。

――毎日無料になるチケットモデルを採用した 2019年12月スタートのサービス「ゼブラック」も「少年ジャンプ+」編集部発ですよね。あちらとはどういう棲み分けを?

細野:「ジャンプ」と名前が付かないことからもおわかりかもしれませんが、集英社の「総合電子書店」を目指しています。ジャンプ系電子書店としては「ジャンプ BOOK ストア!」もあるのですが、「ゼブラック」は弊社作品ではこれまでやっていなかった新しいトライをしようという場所です。

――それで今まで全面的にやっていなかった毎日無料になるチケットモデルを導入した?

細野:それだけではなく、ブラウザでのサービスを伸ばしていきたいという 気持ちもあります。「ゼブラック」はアプリもありますがブラウザ版もよくで きていて、アプリを使わない人にどれだけリーチできるのかも試しています。

「マンガアプリからは大ヒットが出てこない」は本当か?

――世間では「漫画村によって電子でマンガを読む習慣が付いて、なくなったから正規サービスがより伸びた」という声もあるようですが。

細野:どうでしょうね。その前からデジタルでマンガを読んだり買ったりしている人はたくさんいましたし、ずっと増加傾向にありました。あの騒動の時には、音楽や映像のようにサブスクリプションモデルをやるべきだと言われましたが「そうかな?」と。当時、既にマンガのデジタル市場は大きかったので、違和感がありました。

――「少年ジャンプ+」を始めた当初と今ではマンガ業界全体がかなり変化してきたと思います。アプリスタート当時と最近で肌感の違いを覚える点は?

細野:始めたときにライバル視していたサービスはほとんど非出版社系でした。その後、撤退し たり、または電子書店になっていくという流れがありました。今は、電子書店を除けば存在感があるのは出版社系かなと思っています。きちんと力を入れてオリジナルのマンガを作らないと敗退していく。そういう意味で「少年ジャンプ+」はオリジナルマンガで行くという戦略は間違っていなかったと思っていますし、そのなかでもオリジナルに力を入れてきたという自負はあります。

――少し前に、白泉社代表取締役であり「ジャンプ」6代目編集長を務めた鳥嶋和彦さんが「マンガアプリから『ジャンプ』の一線級クラスの大ヒット作が 出てこないのは、紙の雑誌と違って限られた誌面を奪い合うという競争原理が働かないからだ」とおっしゃって話題になりました。『SPY×FAMILY』などを見ていると個人的には「いやいや、もはや時間の問題では?」と思っていますが、細野さんはどうお考えですか。

細野:「媒体は関係ないかな」と思っています。人の可処分時間の奪い合いという点では紙発でもアプリ発でも変わらないですし、ヒットの確率を高めるために各編集者・編集部が何をするかという話でしかないと思います。

 もちろん、「週刊少年ジャンプ」のシステムはすごくよくできています。 だからといってそれしか選択肢がないわけではなくて、今はデジタルだからこそのヒットのシステムを作っていく段階ですよね。まだ「コンスタントにヒットを出すしくみを作れた」とまでは言えないですが、そのしくみを作っていかないと未来はないと思ってはやっています。

――「少年ジャンプ+」の今後の展望は?

細野:まずナンバーワンのマンガ・アプリになることです。ナンバーワンというのは「最も多くの読者を集め、一番面白いマンガが読める場」になるということです。すでに作品面では土壌はありますから、アプリとしてパワーアップすることで達成したい。それから春頃にまたおもしろい企画を発表できると思いますので、作品と合わせてぜひ注目してください。

「少年ジャンプ+」公式サイトはこちら

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