トッド・ラングレン、初の自伝は苦いバラード曲の歌詞のように……個人的エピソードに滲む諦念

見開きごとに完結するエピソード

 トッド・ラングレンに関するいろんなエピソードを知ると、彼が非常にせっかちで多動症的であることが分かってくる。体内時計のペースが人より早い感じ。有名なXTCやニューヨーク・ドールズ作品におけるオーバープロデュース批判も、このペースのズレが根本となっているの原因のような気がする。今回のこの自伝は、1つのテーマについて2ページ見開きで完結させ、それがひたすら羅列されるという形式。冒頭でそれを提示されて、サクサク済まして次に行く感じが非常にトッドらしいなと思う反面、心配にもなった。各々のテーマが深く掘り下げられず、薄めに終わってしまうのではないか? そしてその予感は50%は当たって50%外れることになる。

 トッドの伝記的な書物としては、2011年に日本版も出された『トッド・ラングレンのスタジオ黄金狂時代』(P‐Vine BOOKs) がある。タイトル通り主に自身の作品とプロデュース作に関する製作過程のルポルタージュで、本人と関係者の豊富な証言を『オースティン・パワーズ』の俳優マイク・マイヤーズの実兄ポールがまとめた重厚な一冊だ。正直に言うと、音楽家トッドのキャリアの詳細を知りたいなら、今回の自伝よりそちらに軍配が上がる。例のXTC『スカイラーキング』プロデュースの件に関しても、『黄金狂時代』がXTCメンバーの証言もたっぷりフィーチャーしつつ、2段組の20ページ。方やこの自伝の方は形式通りの2ページが2回分で、あまり思い出したくなさそうなトッドのあっさりした回想で終わっている。自身の作品に関しても、伝記の方で取り上げられてるのは『サムシング/エニシング?』ほか数作で、内容もごく簡潔。ファンなら誰もが大好きな名作『ミンク・ホロウの世捨て人』などはタイトルすら出てこない。

 ではこの自伝が内容が薄い、読む価値のないものかと言うと全くそういうことではない。徹底的に一人称の独白であるが故に、『黄金狂時代』では触れられてない個人史的なエピソードは非常に豊富なのだ。あまり幸福とは言えない両親との関わり。幼なじみのランディとの親密な交流と悲しい別れ。キャリア絶頂期に本当に地球を一周する世界一周旅行をしてたのは驚きだし、ファンには余り歓迎されない、インタラクティヴ作品『No World Order』で垣間見える程度だった初期コンピューターカルチャーとの関わりが、自らコードを書き、商品化されたソフトが一部で高評価を得てたりと、意外と本格的だったのもイメージを一新させられる。また音楽作品に関する面でも、佳曲『Marlene』の背後の失恋話は痛切な印象を残すし、XTCの『Summer’s Cauldron』に虫の声等のSEが入ってるのが、親しい友人だったという映画界の巨匠・フランシス・コッポラからの影響だったと聞いたら、「マジで!?」と身を乗り出す人が多いのではないだろうか。

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