なぜ学校で音楽を学ぶのか? 大谷能生『平成日本の音楽の教科書』が浮き彫りにする、音楽教育の意義
最後の十数頁は、「「行為としての音楽」=「ミュージッキング」のための題材を、現行の教科書から引き出す」(pp.256-257)というチャレンジにあてられる。というのはつまり、教科書が提示する音楽のあり方を、教科書そのものを通じて乗り越えようという試みだと言えるだろう。しかし考えてみれば、教科書の提示する枠組みを教科書をもって乗り越える、というのは、本書が最初から最後までまさに試みてきたことにほかならない。
学校教育という制度的枠組みからいったん逃れて、教科書を読み物として読んでいく。それが自ずと制度そのものの問い直しであるとか、制度の外側に広がる可能性へと読者を導く。本書は単に「改めて教科書を読み直して教養を身に着けましょう」という本ではないし、学校教育について考えましょうみたいな本でもない。なんなら、音楽についての本、とも限らないかもしれない。読むこと、学ぶことの持つ力を雄弁に実演し、読者にもその実践を促す、触媒のような本だ。
■imdkm(イミヂクモ)
1989年生まれ。山形県出身。ライター、批評家。ティーンエイジャーのころからビートメイクやDIYな映像制作に親しみ、Maltine Recordsなどゼロ年代のネットレーベルカルチャーにいっちょかみする。以後、京都で8年間に渡り学生生活を送ったのち、2016年ごろ山形に戻ってブログを中心とした執筆活動を開始。ダンスミュージックを愛好し制作もする立場から、現代のポップミュージックについて考察する。
新刊『リズムから考えるJ-POP史』発売中
ウェブサイト:imdkm.com
■書籍情報
『平成日本の音楽の教科書』
大谷能生 著
価格:1760円
出版社:新曜社